ステージング、小野寺修二の言うことには。続きの続き。 | 北川悦吏子オフィシャルブログ「でんごんばん」Powered by Ameba

ステージング、小野寺修二の言うことには。続きの続き。

パントマイムとステージングの共通点



北川 あと小野寺さんには『13歳のハローワーク』的なことが聞きたくて。こういう仕事を目指している人はどうすればいいんですか?



永山 もとは何屋さんだったの?



小野寺 僕は普通に、商社で働いてました。



北川 ええーっ! 本当に? 大学もそういう関係ではなくて?



小野寺 法学部でした(笑)。卒業したのがちょうどバブルの頃で仕事もいっぱいありまして、セメント関連の商社で営業マンとして働いてました。そこに三年勤めたんですけど、浮かれていたんでしょうね、辞めたいと思って。それでお芝居が好きでもなかったんですけど、今考えると、なんとなくそういうのをやってみたかったんだろうなと思うんです。



北川 舞台の仕事を?



小野寺 舞台の仕事というか、人前に出たかったんでしょうね。なので会社を辞めてお芝居の学校に行ったりしてました。私塾のような、劇団っぽい学校に行ってたんですけど、そのときにパントマイムっぽいことをやらされたんですね。でもそこで「どうやったらうまくなりますか?」と聞いても「そこは聞いちゃダメ」みたいなことしか言われず(笑)。それでちゃんとパントマイムをやったほうがいいかなと思って、日本パントマイム研究所というところに入って、パントマイムを始めました。そのときは、なにもないのに壁があったり、綱を引っ張ったりするようなパントマイムをやれたらいいなと思ったんですけど、やっていくうちにパントマイムをやろう、という気持ちにすごくなっていきまして。




北川 そこに行ったのは、なにかに影響されてですか?



小野寺 中村有志さんがそこの卒業生なんですけど、僕は中村さんが好きだったので、パントマイムをやるならそこに行ってみようと思って行きました。でも、それで別に食べていこうとかいうのはなくて、ただ舞台をやりたくて。



北川 でも、そのときにはお仕事を辞めているわけですよね? すごく勇気がありますよね。でもプロになるつもりではなかったんでしょう?



小野寺 だから浮かれていた時代だったと思うんですよ(笑)。就職しなくても、仕事がいくらでもあるような気がしてたんじゃないかな。



北川 いくつくらいのときですか?



小野寺 それが27歳。でもパントマイムって営業が多いんです。デパートの屋上に行ったり遊園地に行ったり。だから一人でも仕事になるんです。でも僕にはあんまりそれが向いてないというか本当につらくて。



北川 (笑)。なんかちょっとわかる。



小野寺 それで舞台をやりたいなと思って、そこで知り合った人たちと「水と油」という団体を作って舞台を始めるようになって。その団体は四人でやっていたんですけど、06年にいったん止めて、一回海外に勉強しに行って戻ってきて現在に至るというか。今は舞台のステージングを担当したり、いろいろな方々とコラボレーションしながら作品を作っている感じですね。



北川 じゃあパントマイムとステージングの共通点ってなんですか? そこがどうつながってるのが気になるんですけど。



小野寺 パントマイムってお芝居とダンスの間にあるジャンルなんですね。動きもあるし、しゃべらないにしても演技をする。だからしゃべるお芝居に関しては僕もわからないですけど、たとえば僕は今回の永山さんの演出で、飛行機の中で夏来がアイマスクをしているところが大好きなんです。



北川 あのシーンはドラマっぽいですよね。



小野寺 永山さんがそのときにおっしゃってたのは、「映像的に、是枝が夏来を見たらそれでいいよ」ということなんですが、僕はすごくそれがわかると思って。そこで変にせりふでなにかをするより、見るという動きで恋に落ちたのを表現するのって、意外と舞台ではやらないんじゃないかと思って。でも今回、それをやっている。


北川 さっき、この舞台をご覧いただいた堤(幸彦)さんが力説してましたよ。私が「お芝居の脚本が初めてで」と黒木瞳さんとしゃべっていたときに、「映像と違ってアップが抜けない」と言っていたら、堤さんが「違うよ! アップはちゃんとあったじゃないか!」と言い出して。今、小野寺さんがおっしゃたシーンのことなのかな。「あれはアップだよ、抜いているじゃないか!」と力説してました(笑)。



小野寺 (笑)。だからすごく映像的な演出で、言葉にちゃんと沿っていきながら、絵で見せるのがすごく面白かった。脚本やイメージがあるところから、それをどう具現化するかということについて、すごく勉強になりましたね。そういうところはパントマイムに近い気がします。マイムも踊るために踊るんじゃなくて、なにかイメージがあって動くようなところがある。たとえば風船をふくらませていると、身体も同化していくと思うんです。自分も風船みたいにふくらんでいくみたいな。そういうイメージとともに身体が動くから、急に踊り出す感じは少ないんじゃないかと思うんですね。今回の飛行機の離陸のシーンも、お芝居を延長してつないで表現している。だからイメージがあって動くという部分でマイムとつながる瞬間があるような気がします。でもこういうマイムとステージングがつながるのはささいな瞬間なので、現場では意外とノーと言われることが多いんです、地味なので(笑)。でも今回、永山さんがそういう部分も汲んでくださって。



北川 今回の話って、飛行機で隣り合った人が11時間、一緒にいるという話じゃないですか? だから、普通の飛行機の中という状況で、脚本を書かなきゃいけないという意識があったんです。一度でもその幅からはみ出てしまうと、人って飽きるしもっと振り幅を大きくしてほしいと感じると思うんですよ。だから途中で不時着やハイジャックされたりしちゃいけない(笑)。余りにも苦しくてそれをやりそうになるんですけど。でもこの脚本を書いてみて、そこの幅に気を付けて書いていれば、ささいなことを描いても、作品として行き切れるんじゃないかなと思いました。



小野寺 そう、そういうことなのかなと思いますよね。そんな感覚もパントマイムとつながるものがあるように思います。



北川 なるほど。今日はいいお話をありがとうございました。ステージングの内容がわかったし、その核心に触れられたと思います。



小野寺 僕もお話しさせていただいて、すごく勉強になりました。どうもありがとうございました。



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後ろが小野寺さん。左が私。右が永山さんでした。

優しそうだ、二人とも。