ErikaがYutaの部署に配属されて2年が経過した。

同じ案件に関わることもあれば、そうでないこともあり、先輩と後輩としてそれぞれに淡々と仕事をこなしていた。

 

Erikaは妊娠していて、いよいよ翌日から産休に入る、という時だった。

デスクの上を片付けていると、隣の席だったYutaが言った。

「Erikaさん、出産後は無理せず、ご主人に色々助けてもらってください。自分は妻の出産後、何も手伝わずに無理をさせて、その結果、妻は身体を壊してしまったので…。」

Yutaは遠くを見るような、優しい表情をしていた。

 

 

約1年後、Erikaは仕事に復帰した。

その頃、Yutaは会社にほとんど姿を見せなくなっていた。

たまに出社したと思っても、午後には早退したり、空いている会議室の奥の椅子に座り、頭を抱えながら小声で電話をしている姿を、たびたび見かけるようになった。

彼はなかなか自席に戻ってこなかった。

コーヒーを淹れようと会議室の前を通ると、彼は両手で顔を覆ってうつむいていた。

 

Yutaの妻が体調を崩している、と聞いたのはそれから数日経った頃だった。その頃はすでに、彼女の病状はかなり進んでいて、Yutaが自宅で看護していた。

たまに出社した時に見せるYutaの険しい表情から、ことの深刻さは伝わっていた。

 

当時、1歳に満たない子供を抱え、仕事に復帰したばかりのErikaは、仕事と育児を両立させようと必死だった。自身のことで精一杯だった。

隣の席に座っていながら、苦しみながら仕事を続けるYutaに対して、何の手助けもできなかった。

 

ある日、上司が突然、仕事中に携帯電話を持って席を立ち、廊下に出た。

廊下から漏れ聞こえる上司の声で、Erikaは状況を察した。

Yutaの妻が亡くなったのだ。