納期の迫ったプロジェクトを終わらせるため、その日も2人で休日出勤をしていた。
「Yutaさん、今日はお昼、どうします?」
「あ、行きましょうか。」
ランチに誘うのは、いつもErikaのほうだった。
5ヶ月前に、雷が落ちたかのような衝撃とともに、彼に片思いをし始めて以来、休日出勤で2人揃うたびに、Yutaをランチに誘っていた。
お互いが母子家庭、父子家庭なので、そうそう自由に飲み会に参加することもできず、ランチくらいでしか、仕事以外の話をゆっくりする機会がなかった。
オフィスに他に誰もいない休日は、声をかけやすい。
同僚としてのErikaにできる、最大限のアプローチであり、二人で過ごせるその時間が、彼女の生き甲斐だった。
ランチでは、いつもたわいもない話をする。
休日の過ごし方、お互いの子供のこと。
Erikaには小学生の男の子が、Yutaには中学生の女の子がいる。
離婚して数ヶ月しか経っていなかったErikaは、一人親として子供を育てていくことについて、先輩のYutaに相談に乗ってもらっていた。
その日は、ちょうど数日前に、Yutaの娘さんが本命の学校の入試を終え、解放感に溢れているときだった。
少し1時間を延長してランチした後、いつものように人気の少ない休日の会社に戻った。
節電のために照明が暗めに設定された、オフィスへの階段を上る途中、Yutaは急に立ち止まると、真剣な顔で言った。
「Erikaさんに言っておきたいことがあります。」
来た・・・。きっと私はフラれるのだ。
Erikaは、覚悟を決めて次の言葉を待った。
これまで、彼と目が合うと吸い込まれるような感覚があった。
きっと彼とは根底で深く愛し合っていて、いつか必ず結ばれるのだ、と潜在意識では確信していた。LINEでのやり取りも、仕事に関することをシンプルに伝え合うだけだったけれど、そこには何らかのお互いへの気持ちが込められている、と信じていた。
けれど、現実では告白さえできず、一緒にいられる時間を少しでも伸ばしたくて、残業や休日出勤をするのが精一杯だった。
確信する気持ちとは裏腹に、日々、彼の言動に一喜一憂していた。
また、11年も一緒に仕事をしてきたから、彼の性格は良く知っていた。
誠実で真面目で几帳面。自分の軸が定まっていて、何があってもブレない。
意志が強い分、頑固とも言える。
石橋を叩きすぎて壊すほど、慎重。
検証に検証を重ね、それでもさらに検証する。そのため、スタートダッシュは苦手。じっくりと様々な角度から検討し、土台を固め、次第に形を作っていく。そうやって時間をかけて生み出したものは、とても素晴らしいものになる。
理系で論理的。裏の取れない発言はしない。
頼まれると断れず、無理をしてでも助けようとする。
(ツインレイ 男性には、これらの特徴を持つ人が多い気がしている)
そんな彼が、せっかく仕事でうまくいっているこの関係を、壊すようなことをするだろうか?
仕事を大切にする彼だからこそ、慎重で誠実な彼だからこそ、Erikaの気持ちを悟って、優しくこう言うのだ。
「自分は、Erikaさんと仕事をすることが楽しい。いいパートナーだと思っている。だから、これからも仕事の仲間として仕事に集中しましょう。」
そして、Erikaは泣くのだ。
彼と私がツインレイ だなんて、私の勘違いだったんだ。
これからは、本当の意味で自立し、ひとりで強く生きていかなければ・・・
ところが、現実は違っていた。
「こんなこと、言っていいものか迷ったんですが・・・Erikaさんのことが好きです。」
Erikaは、その瞬間、宙にも舞う感覚だった。というか、本当に幽体離脱していたらしい。
階段の踊り場で無言で立ち尽くす、ふたりの姿を、Erikaは頭上から見下ろしていた。