腎臓病棟のトイレは、とても広い作りになっていた。

水色と紺色のタイルが床に敷き詰められたそのトイレには、スリッパを履き替えて入ると、すぐのところに、ちょっとした広間があった。

そこには、アルミフレームの棚が設置されていた。

 

その棚には、入院患者の名前が貼られたガラス瓶が、所狭しと並べられていた。梅酒を作るときに使う、あの蓋つきのガラス瓶。

透明、黄色、だいだい色、やまぶき色、紅色、鮮血の色、黒味がかった赤色。

透明度の高いものから、濁りの強いものまで、様々だった。

そこには、私たち患者の尿が貯められていた。1日の尿量、尿の成分(血液、たんぱく質、糖など)を検査するためだ。

 

小さなトイレの窓から差し込む光に、ガラス瓶の中の色とりどりの液体はキラキラと輝いた。

 

Erikaは、博物館の展示でも眺めるような気分でそれらの瓶を見ていた。鼻をつくアンモニア臭さえ、気にならないほどだった。

 

現在の病院では、そんな状況はないのかもしれない。

当時は、個人情報の取り扱いなど、気にもされない時代だった。

Erikaも、腎臓病患者の尿の色で、ある程度は病状が推測できることを知っていた。透明度が高く、色が薄いものは、健康に近い。

一方で、濁りが強いものや、色が赤に近かったり、濃いものは病状が思わしくない。

 

●病室のあの子の尿、急に濃くなった・・・安静度も高くなった。大丈夫かな。

〇〇ちゃんの尿は、透明で綺麗だな。退院も近いのかな・・・

 

そんなことを思いながら、ほかの子供たちの病状を慮った。