スーザン・ケイの小説、『PHANTOM』の舞台を観に行って来ました。
劇場は新宿御苑前駅近くのシアターサンモールです。




公式動画
https://youtu.be/bLblqUzD6Ck


この舞台は、スタジオライフさんという劇団の公演です。
こちらの劇団、出演者が全員男性なんですね。
今回観に行くまで知りませんてした…!
PHANTOMには女性が出てきますので、どーなるこっちゃ?!と思いましたが、全く問題なくスルッと観れました。
所作なんて女性より女性らしかったです。
声は男声のままなんですけどね。

今回、スタジオライフさん30周年記念公演として『PHANTOM』再演の運びとなったようです。
観たかったので本当に嬉しい。
小説の上下巻の内容を、Part Ⅰ とPart Ⅱ の2部構成にされての上演でした。
ダブルキャスト(チーム)に分かれており、観たい方を選べるわけですが、わたしはPart Ⅰ ・Part Ⅱ と通してエリック役を演じる方は同じ人がいいなぁ~と思いまして。
なのでこの日(12/6)、マチソワで観ました。
観たかったエリック役の方は山本芳樹さんという方。
その方のエリックはこの日が千秋楽でした。

いや~…なんといいますか。。
3時間の舞台をマチソワするって、すごく体力がいりますね…!
身体的な疲労感もあるのですが、この舞台の内容が…つらい。精神削られる…!!
また再演があっても絶対マチソワはしないと心に誓いました(笑)


観るだけでもこんなに大変なのですから、演じる方は相当ですよね。
エリック役の山本さんは、幼年期から中年期までエリックの壮大な人生を見事に演じておられました。
本当に同じ人か?!と思うほど声色を使い分け、声が歳を重ねていくんですね。
すごい。
声だけではありません、佇まいも。
ふと、エリザベートの花總まりさんを思い出しました。
小柄な方だと思うんですが、幼少期は本当に子供に見えましたし、青年期中年期と歳を重ねていくと艶っぽさが出て妖しい魅力も振り撒いておられました。
ダンス…とはちょっと違うかな?エリックが建築物を見て舞うようなシーンがあるのですが、その手や身体の動きがなんともしなやかなこと!
美しかったです。
エリック誕生から死までの物語…その壮大な人生を目の当たりにして、めちゃくちゃ辛かった。
なんといいますか、人を育てるのは人なんだな、と思いました。
人、うん、環境。
だってエリックがあの性格になったのは、周りの大人たちのせいだもの。
エリック何も悪くない。
人を拒み続けながらも人を求めるエリック…
山本さん演じるエリックは、歳を重ねていく度に纏っている哀しさが深くなっていったように感じられました。
… はぁ、つらい。。
なんだかわたし、観劇していてエリックを抱き締めてあげたくなりました。
ものすごいエネルギー…熱量で、山本さんの迫真の渾身の演技に心から拍手でした!!
本当に素晴らしかった!

他の出演者の事もたんまり書きたい所ですが、長くなるのでさらっと。
エリックの母マドレーヌは、小説を読んだときになんて女だ!と思いましたが、彼女も息子を愛したいのにそれが出来ない葛藤みたいなものが舞台からはよく感じられました。
見世物小屋の興行師、ジャベール。
なんとまあとんでもねえ下衆ヤローっぷり(笑)が見事でした。
もう、エリック虐めるのやめてよ…!!
エリックが生きてきた上で、友人ナーディル(ペルシャ人)や理解者ジョヴァンニ(エリックを雇ってくれたマスターメイソン)、共にオペラ座建築に携わった仲間シャルル・ガルニエ(建築家)がいたことは、本当に良かった。
特に、理解者ジョヴァンニとの穏やかな時間が、ずっと続けば良いのにと思った。
温かな人、物言いが好きだったな、ジョヴァンニ。
『君はいい子なんだよ』ってエリックに言ってくれた人。
みなさん素晴らしかったです。
お尻は痛くなりましたが、見いってしまった6時間でした。


そうそう、この舞台はミュージカルではないので、役者は歌を歌いません。
でも、歌声は流れてきます。
どこかのソプラノ…とても綺麗な声だったけど、あれは誰なんだろう?
あ、日本語じゃないです。
ファントムはテノールの声だったかな?
バリトンやバスらしき声も…ってなかんじで、でも『歌声』として流れてくるというよりは、『音楽』として流れてきます。
それがまたセンスが良くて、生演奏ではなくとも迫力もあり、満足でした♪
歌わないファントムでもね。
山本さんの演技に見いってしまいます。


セットは、レミゼ25thやオペラ座25thを手掛けた舞台美術・映像デザイナーの、マット・キンリーさん。
スタジオライフ凄いな~。
この映像美が本当に素晴らしくて!!
こちらを観に行くだけでも価値がある。
ファントムの生家のお部屋や、パリの町並み、豪華絢爛なオペラ座など、プロジェクションマッピング(というのかな?)で、瞬時にその世界へ。
また、この大きすぎない箱がちょうど良いんじゃないかな~とも思います。
(しかも劇場自体が地下なのだ!)
映像だけかというと、そうではなく、品の良い調度品などもセットとして出てきます。
そして、見世物小屋に入れられたエリックも…。
車が取り付けられた檻、ぐるぐる回ったり…これがすんごい良くできている。
リアルなだけに辛さが増します。。。
鏡の迷宮や、もちろん地下のエリックのお部屋も。
そして、屋上のアポロン像!これまた良く出きたつくりで豪華。
海劇場で観た四季のように動きはしませんが、それよりもセットが大きく、山本エリックが乗るとちょうど良い高さ、そして暗さで、素敵!!
四季のペガサスバージョンは止めて、こうしたらいいんじゃないかと思ったw
衣装もしっかりしていて。
これでチケットこのお値段って、凄いですね。


ストーリーは、小説に沿っていました。
時間が限られていますから、削られてた部分もありましたけれど。
未読のオペラ座ファンはぜひ読んでください。

コピット版の感想にも似たような事を書いた気がしますが、ガストン・ルルーの小説のオペラ座の怪人って、謎が多いですよね。そのぶん、人それぞれ色んな見解や掬いとる要素か違って様々な形で作品として世に出されていて、それらに触れるのは楽しいです。

で、このスーザン・ケイさんのPHANTOMは、単品で楽しめるのは勿論なのですが、ガストン・ルルーの小説や有名なALWのミュージカルなど他の作品と合わせて見ると更に楽しいと思います。

ALW版の屋上のシーン、どうして地下暮らしのファントムがあのとき屋上に居たのか…というのを、ああそういう理由があったのね、としっくり納得できるようになっていたりと面白いです。
スーザン・ケイさんの二次創作であるわけですが、説得力があり本当に良く描かれていて、そうかもしれないね、って思える。
『母にも嫌い抜かれて マスクで醜さ隠され』
という二行のこの歌詞の中から想像するしかなかった部分(いや、舞台は想像しながらの観賞が楽しかったりするんですが)を、スーザン・ケイさんの解釈で、ひとつの見解として、魅せてもらいました。
子供の頃、お誕生日にキスが欲しいとお願いしたエリック。
でも、母マドレーヌはそれを拒みました。
宿命を呪い半世紀生きてきてキスをされる気持ちがどんなものかもわからない…そんなエリックがクリスティーヌにキスをする。そして、クリスティーヌからエリックにキスをする。
クリスティーヌからのキスの意味が深く感じられます。
他者(エリックの場合は女性からかな)から承認されるっていうか…認められるっていうのは、誰でも望んでることのように思います。。。
作品が違うにしても、ALW版を観るときにこういったエリックの人生があってのファントムなのだと思いながら観てもより楽しめそう。

で、ちょっと面白いなと思ったのが、ALW版だけではなくて、ケン・ヒル版やコピット版要素も感じられたこと。
原作が同じなのだから当たり前かもしれないけど。
それぞれの作品を観た時の強い印象を、ざっっっくり書くと、

ALW版→音楽の繋がり
ケン・ヒル版→化け物扱い
コピット版→母への想い

…ってなかんじだったのですが、これ全部まるっと見事にPHANTOMで感じられたことが凄いなぁと思って!
しかもラストはLND要素もある。
そう、LND要素… でも、LNDよりスルッと観れちゃう。
エリックが死んじゃうからかな。
いや、スーザン・ケイさんからのエリック愛を感じるからかも。
エリックにだって幸せになる権利はあるよ!あたしが幸せにしちゃるよ!…みたいな。
舞台や小説を読んで『ファントムをもっと知りたい』という思いで小説を書いたというスーザン・ケイさん。
まぢで友達になりたいと思った(笑)

私の願いはただひとつ
陽の光をいっぱいに浴び、パリの街を歩くことー

ファントムという仮面の下にいる、哀しいひとりの男、『エリック』の物語。
素晴らしい舞台でした。