前回予告した「対象」Gegenstand (ゲーゲンシュタント)という言葉を説明します。

 

 元はと言えば gegen(向き合って)- stand (立つ)という合成語です。  

 

 資本論を見てみましょう。

Die Ware ist zunächst ein äußerer Gegenstand, ein Ding, das durch seine Eigenschaften menschliche Bedürfnisse irgendeiner Art befriedigt. 
商品は、まず第一に、外的な対象であり、その属性によって人間の何らかの種類の欲望を満足させる”もの”である。

 さて、この「外的な対象であり、」は内容的に重要なのでしょうか?

 これを外すとこうなりますが、これで通じるように見えないでしょうか。

商品は、まず第一に、その属性によって人間の何らかの種類の欲望を満足させる”もの”である。

 そんなことはありません。

 では、この「Gegenstand」とはどのような意味なのか?
 それ説明しようというのが今回のテーマです。

 

 まず、自分の目の前に「ある一つの商品(Die Ware)」があるということを想像してください。

 あるいは、実際に何らかの一つの「商品」を手に取って実際に眺めてみてください。

 

 このときの精神がどのようになっているか?がテーマです。

 

 次に、下の図をご覧ください。 

 

 この図の外側の点線で囲ったマルは「世界の全体」ないし「あなたの意識の全体」を表します。

 

 点線にした理由ですが、この”全体”には「さらなる外部へのハッキリした境界」があるとは感じられないと思われるからです。

 

 さて、さきほど、自分(あなた)が想像したり手に取ったりした「ある商品」は、このマルの一部として図のような形で現れたはずです。何ならもう一度やってみてください。

 

 Gegenstand というのは、この「マルの中の”それ”」のように、「世界の他の部分ではない、そこから切り出されたかのような「それ」として意識に現れたもの」という意味なのです。

 

 あるいは、まだ言葉を覚える前の赤ん坊の視界を想像してもよいでしょう。「全体がうすぼんやり見えている中で、あるひとつの”何か”に目の焦点が合っている、その”何か”」は Gegenstand に他なりません。

 

 それは、意識の内部と言えないこともないのですが、どちらかと言えば外部です。なぜなら赤ん坊はそれが何かをまだ知らないのですから。

 

 その「何か」がどのようなものであるかを知っていくのはこれからです。

 

 これから、なんらかの「ある一つの商品」を分析していきます。

 

 それはまず第一に、外的な対象である。「それ」は Gegenstand になってくれないと分析を始めることもできない。それが Gegenstandとなる、「前に立つ」ようにすることで分析は始まる、というわけ。