今年初めての映画です。

すみません、ネタバレもしていますので、ご注意を。

昨年のカンヌ映画祭で役所広司が主演男優賞を受賞してことで、

話題になっていた作品。

彼が演じるのは、渋谷区にあるトイレを掃除して回る清掃人。

スカイツリーが見える古いアパートに住み、

毎朝早朝、近所から聞こえてくる箒の音を目覚まし代わりに、起床。

歯を磨き、髭を手入れし、集めた植木に霧を吹きかけて、

清掃人の制服に着替えると、自販機で缶コーヒーを買い、

カセットテープで60年代＆70年代の洋楽を聴きながら、勤め先へと向かう。

黙々とトイレを掃除し、

いつも決まった公園で、コンビニで買ったサンドイッチをランチで食べる。

木々が好きで、木漏れ日を見上げては、自分の古いカメラに収める。

夕方には仕事を終え、銭湯で汗を流し、下町の居酒屋でアルコールとつまみを口にする。

夜は、ランプの下で文庫本を読み、やがて就寝。

そんな日々を毎日、毎日、繰り返す。

冒頭から、ほとんど、セリフのない時間が続く。

役所が演じる平山は、とにかく喋らない。

その静寂を破るのは、一緒に清掃をする若い男タカシ。やかましいぐらい喋る。

ストーリーは、タカシが落としたい女アヤや、

突然、平山のもとに押しかける姪っ子ニコ、さらに平山が週末訪れるバーのママなど、

周囲の人々がアクションを起こすことで、その日常が少しづつ動いていく。

人の日常の繰り返しを描いた作品といえば、ジム・ジャームッシュの「パターソン」も思い出すが、

あっちは、私、DVDで見たので、どうも印象が薄い。

こっちは劇場で見たから、というのもあるかもしれないが、

より深い普遍性があり、心の奥の方に迫ってくる。

彼の佇まい、醸し出す上品な空気とか風格とか、

パティ・スミスやアニマルズなどを好む音楽センスだったり、

家の中の蔵書の数からも、知性と教養があるだろうと感じるものの、

一体、何があって、彼の生活がこうなったか、最後まで何も説明はされない。

唯一、姪っ子を迎えに来た平山の妹が、運転手付きの高級車でやってきて、

「本当にトイレ掃除してるの？」と尋ねるセリフやら、

神社にお参りをする平山の目線の先にあるお地蔵様などで、

観客の想像は、それぞれに膨らんでいく。

きっと何かがあって、それまでの生活を清算し、いっさいを捨てたのか。

ただ、言えるのは、絶望して、こういう生活をしているのではない、ということ。

彼は、言葉数は極端に少ないけれど、

決して心は閉ざしていない。むしろオープンハート。

だから、押しかけた姪っ子も明るく歓待するし、帰ったほうがいいと説教することもない。

お金に困っているタカシから懇願されれば、お金も貸してやる。

繰り返しの毎日って現実でも程度の差はあれど、誰もが（私も含め）そうだと思う。

で、あまりに毎日同じなので、生きる目的とか、将来に希望が生まれない、

そんな閉塞感に囚われている人々がいっぱいではなかろうか。

繰り返しから生まれる退屈と孤独から逃げるために、

人々はSNSで繋がって、その場凌ぎの友達関係を確認しあって、安心しあう。

しかし、平山は、そんなふうに考えて毎日を生きてはいない。

第一、彼はテレビもパソコンも持っていない。

唯一、仕事の連絡で必要な古いタイプの携帯を持っているのみ。

言ってみれば、禅僧のような、ミニマムな生活をしている。

朝起きたら、早朝の空を見て、音楽を聴きながら、首都高を走って、

と、そういう行動すら、喜びを感じるのか、平山の表情は緩い。

掃除人ということで嫌な思いをしようとも、心の余裕を失わない。

木漏れ日を見れば、そこに幸せを感じて写真を撮る。

フィルムがいっぱいになると、町の写真屋に現像に出す。

これもルーティンのようになっていて、現像された写真はいいものだけを大事にしまって、

そんな箱が押し入れにもういっぱい溜まっている。

あー、人間はこういう風に生きていいんだ、

って、むしろ私は、彼の生き方に救われて、気持ちがラクになった。

あー、人生って、こういうことなんだ、、

という、今まであまりにシンプルすぎて考えもしなかったことを気づかせてくれて、

そういう意味での感動と、同時に、

勇気と、希望、人生の生きる目的を教えられる思いだった。

考えてみれば、

太古の昔、人類は太陽とともに目覚め、日没とともに眠っていたのだから。

それが、どんどん進化して、多くの便利なものに囲まれるようになって、

それは、人間をあくせくと動かすことにもなった。

今では、パソコンと携帯がないと動けない。

せわしない日常の中で、

人生の生きる意味がわからなくなっている。

少なくとも、平山は、人生であくせくしていない。

それは、彼の過去の失敗から学んだからか、それはわからないけど。

そんな平山だが、

妹と別れた後、初めて涙を見せる。

さらに、ニーナ・シモンを聴きながらハンドルを握るラストシーンでも、

笑顔から泣き顔に、表情が色々と変わっていく。

ここは、いろんな解釈があるみたいだけど、

私は、妹と会った後に、過去の色々が走馬灯のように蘇っているのかな、

とも感じていた。

ただ、彼は過去を乗り越えているし、今後もこういう生活をしていくだろう。

そう自分で納得して、肯定している涙でもあったと思う。

平山を演じた役所が素晴らしいのは、当然で、

彼が主演したからこそ、この映画が成功したと確信できる。

他の役者で、ここまで映画の風格が出たかどうか。

ただ、彼以外で、一部の役者たちの過剰な演技、わざとらしいセリフ回しは違和感があった。

私が日本映画を好きになれないのは、

そんな言い方、現実の生活で言わないでしょ〜、

というような言い回しがよく出てくるからなのだ。

今回も、それはあってちょっと残念だったけど。。。

ヴェンダース監督の作品、

私は「ベルリン、天使の詩」「パリ、テキサス」を見て、あまり好きではなかったが、

そういえば、「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」を監督していたこと、

すっかり、欠落してた〜。

これは、DVDも持っているぐらい、大大大好きな映画。

ところで、この映画に登場するユニークでアートな公共トイレの数々は、

THE TOKYO TOILETというプロジェクトで、ユニクロの柳井氏が発案したもの。

作ったのは、錚々たる建築家、クリエイターたち。

映画の中ではもう１つの主役のような感じで、

大いに存在感を発揮している。

↓これ、以前、ニュースにも取り上げられていた、かなりセンセーショナルなトイレ。

ふだんは透明だけど、人が入ると、不透明になるという凝ったやつ。

平山がここを清掃しているシーンは何回か出てくる。

これらの他にも、斬新なトイレが色々と登場し、

それも見逃せない。

ついでに、

私の住む近所にもTOKYO TOILETが存在。

残念ながら登場はしなかったけど、

中がどうなっているのかは偵察してきましたよ〜

生きる意味について、

改めて教えられた、この映画。

ずっと、私の心の中にしまっておきたい、

大切な宝物になりました。

「PERFECT DAYS」