とは言うものの、僕はこの問題については詳しくないので。
前に読んだネタ本を、本棚から引っ張り出しました。
『中国―隣りの大国とのつきあいかた』 (2007・春秋社)
困った時のマル激。
神保哲夫・宮台真司両氏によるビデオニュースでの対談を書籍化した本です。
収録は以下の4つ。
第一章「こじれた日中関係をどう立て直すか」・・・ゲスト:加藤紘一(衆議院議員)
第二章「中国人の目に映る日本人の歴史観」・・・ゲスト:劉傑(早稲田大教授・歴史学者)
第三章「いま中国に何が起きているのか」・・・ゲスト:輿梠一郎(神田外語大教授・元外務省専門調査員)
第四章「東シナ海ガス田問題の本質」・・・ゲスト:猪間明俊(元石油資源開発株式会社顧問・理学博士)
全ての内容を簡潔にまとめる力量は僕には無いので、気になる視点をピックアップしてみます。
超要約なので、出来れば実際に一読されるのがオススメです。
●靖国問題と反日感情
第一章・第二章に詳しく。
反日感情が一気に噴出したのは、2005年の小泉首相による靖国参拝が契機。
靖国参拝自体はそれ以前から続いていた為、この時点で湧き上がった背景には中国側の事情がある。
(2005年1月の趙紫陽元書記死去。2004年の日米安保見直し・新防衛計画大綱。日本の常任理事国入りへの警戒など)
しかし、大本には歴史認識問題がある。
日中国交正常化以来、友好ムードが長く続いていたが、90年代の「新しい歴史教科書を作る会」などの
日本側の動きに中国世論が反発。
第二章の劉氏によると
●日本の歴史認識について、中国のインテリ層と一般国民の間に大きな溝がある。
インテリ層はあまり歴史認識を問題にしたがらない傾向。
●中国の一般の人が何を問題と思い不満に思っているかと言うと、日本側の「尊敬の欠如」である。
劉氏が指摘した「尊敬の欠如」とは、つまり靖国参拝が持つ意味。
宮台氏は靖国参拝を「サンフランシスコ講和条約が手打ちである事を忘れた」振る舞いであると言います。
●サンフランシスコ講和条約について
サンフランシスコ講和条約とは、A級戦犯に汚名を着てもらって天皇と国民が免責される為の、
一種の「手打ち」だった。
A級戦犯に全ての戦争責任があった訳ではない事は、当時の誰もが判っていた。
(積極的に戦争を煽った朝日新聞や無差別爆撃・原爆投下を行ったアメリカより、A級戦犯が悪い等という事はあり得ない)
しかし戦後復興の道筋を付ける為には何らかの「手打ち」が必要。
その為に、A級戦犯とされた人々は命を投げ出した。
ところが戦後「右」も「左」も手打ちの意味を忘れ、「右」は「A級戦犯は悪くなかった」とベタに信じ込み、
「左」は「A級戦犯は本当に悪かった」とベタに信じ込んだ。
どちらも犠牲を無にする国賊的振る舞い。
問題は、「右」が固執する靖国参拝が「手打ち」の意味を根底からひっくり返す行為だった事。
当然、全てをひっくり返す覚悟などは無く、意味を忘れているから出来る行為。
忘れる事自体が、中国に対しては隣人としての尊敬を欠き、A級戦犯に対しての尊敬を欠いている事になる。
●中国社会の問題
第三章に詳しく。
とは言え、反日感情の盛り上がりには中国側の事情も大きい。
2004年のサッカーアジアカップで日本人サポーターへのブーイング騒動があったが、
以前の中国なら観客は基本的に動員なので、命令を守っておとなしく観戦してた場面。
つまり、この時の観客は2000元という高額の入場料を払った人々であり、それなりの高所得層だった。
この事は、中国社会においていわゆるプチブル層が政治的欲求を持ち始めたという事であり、
それに対して共産党のコントロールが効かなくなりつつある事を示している。
※本書は2007年時点なので、現在では誰でも知ってる事ですよね。
今回の反日デモも、ネット・携帯を使える若年層がほとんどでした。
農村部に比べたら、それなりに金持ってる奴らです。
中国はロシアの失敗に学んで、政治体制より先にまず経済から資本主義化する方式を採っている。
その為一党独裁と資本主義経済が同居している状態だが、
これは官僚・企業家にとって非常に都合の良い体制であり、利権のオンパレード。
第三章で輿梠氏が示しているデータでは、人工の60%を占める農業・産業労働者が経済等級の最下層。
また国有企業が中国経済に占める割合の変化を1985年→2000年で見ると、
工業生産・就業人口が70%→30%に減っているのに対し、
投資額は70%→60%、銀行融資も70%→70%とほとんど変わらず。
利権で稼ぐ官僚に対し、深刻な貧困状況にある農村と使い捨てにされる都市労働者(反日デモ層含む)。
高まる不満を、ネットによる情報化が行動に結びつける。
なお宮台氏によると、
経済発展に伴って国民の政治的欲求が高まると「二国間外交と四者プレイヤー」の構図が生まれる。
これを日中関係に当てはめると、日本政府・日本国民・中国政府・中国国民の四者となる。
つまり中国も日本も民意を無視出来ない状態であり、外交を有利に進める上では相手国の国民感情を
自国に有利な形に誘導する働きかけが必要になる、との事。
●東シナ海ガス田問題について
第四章に詳しく。
宮台氏によると、尖閣諸島は歴史的に見ると海上交通の要衝。
明・日本・朝鮮・琉球・台湾など各国の船が立ち寄る場所であり、元々どこの国の領土という訳でも無かった。
歴史的な観点で見るなら、その事実を尊重しなければならない。
しかし尖閣周辺が天然資源の宝庫らしい事が判り、日中にとって互いに領有権が重大問題になった為、
合理的解決方法が必要。
しかし戦争はコストが高過ぎる。バーター取引も潜在資源の価値が不確定な為ムリ。
その為、かつて鄧小平が「棚上げ論」を提案したように領有権に決着をつけようとせず、
ここでも双方で「手打ち」をした上で共同開発するのが最も合理的、との事。
なのですが。
ここが難しい所ですよね。中国がそんな話を飲むのか。
第四章の猪間氏によると、共同開発の話は一応(2007年時点で)中国側からも出ているとの事。
ただ双方が主張する境界線が違うので、折り合わない。
中国は中間線より日本側を、日本は中国側(既に中国が開発を進めている地域)の共同開発を提案してるので、
既に自分が開発している地域の共同開発、という日本側の提案を中国が飲む訳が無い。
しかし、中国側の提案が日本にとってメリットがある、と見る事も出来る。
第一に、係争地域である以上、基本的に共同開発しかない。
第二に、埋蔵量が不確定な為、互いにリスクを分散出来る。
さらに、日本の提案では既に中国が開発を進めている地域である以上、
もう「美味しい部分」は取られた後かも知れない。その場合は投資がムダになる。
しかし中間線より日本側は未開発の為、膨大な資源が存在しているかも知れない。
「手打ち」を済ませ開発した方が互いに生産的。
また万一資源が無かった場合はリスクヘッジ出来る。
外交的にヘタレに見える以外は十分あり得る取引、だそうです。
●まとめ
本書が出た時点から5年が経ち、状況も変わってます。
歴史認識の争いは日本がかつての「手打ち」を忘れたまま悪化の一途を辿り、
中国側も国内の不満が更に悪化してます。
何より日本では震災と原発事故です。
本当は極力外交の火種に火を付けず、国内の問題に専念すべき時だと思いますが。
日本のシロアリが邪魔してるんですよね。
まるで国内の問題から目を逸らさせようとするかのように。
それは向こうも同じかも知れませんが。
ただこのまま行くと、戦争に突入する可能性も十分出てきました。
今の状態で例え小規模でも戦争など行えば、100%日本は終了です。
何より僕自身がまっぴら。
だからこそ、向こうのネトウヨに呼応するのは何も利が無い事です。
僕ら普通の国民が冷静さと損得勘定を失えば、結局政府がそれに媚びてバカな対応に出る。
国民と政府は、別々のプレイヤーなんです。
領土問題は決着が付かない。だから損得で「手打ち」。
それが妥当だと僕も思いますが、「手打ち」を有利に進められるかは力関係しだい。
双方とも超重要な貿易相手国、しかし今や日本は3・11で相当不利。
この無理ゲーっぷりを思えば、都知事や自民党の面々みたいな対応は犯罪的です。
正面から対立を煽る、靖国はベタに参拝、ついでに原発は維持。
事態がどうなれば満足なんだ。
