福島県内の白血病で亡くなった方の推移を検証します。

 

結論から書くと、福島県で白血病で亡くなった方の推移には、原発事故後もおかしな傾向はないことがわかりました。本当に良かったです。

 

白血病年齢調整死亡率

 

国立がんセンター・がん情報サービスでは、がんに関する様々な統計データを収集して公開しています。このサイトを、都道府県別75歳未満年齢調整死亡率、都道府県別がん死亡データ、人口動態統計による都道府県別がん死亡データ 全がん死亡数・粗死亡率・年齢調整死亡率、と辿っていくと、「部位別75歳未満年齢調整死亡率」というエクセル・ファイルを取得できます。数日前に2018年の「部位別75歳未満年齢調整死亡率」データが公開されました(2020年2月13日現在)。そこで、取得したエクセル・ファイルから「全国」と「福島県」の「白血病」の2018年までの年齢調整死亡率を抽出してグラフにしてみました。

 

福島県のほうが全国より人口規模が小さいので、ばらつきは大きいものの、福島県において2011年の原発事故後に白血病年齢調整死亡率が増加しているような傾向は見えていません。

 

白血病は液性のがんで、放射線影響が早期に敏感に表れやすいとされています(原爆被爆者における白血病リスク)。そこで、白血病は放射線影響を評価する上での指標となりえます。したがって、福島県で白血病年齢調整死亡率におかしな傾向がないことは喜ばしいことであり、福島県で原発事故による直接の健康影響は見えていないのではないかと結論付けることができます。

※亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。

 

全国と福島県で白血病年齢調整死亡率に有意差はあるのか

 

「福島県のほうが全国より人口規模が小さいので、ばらつきは大きい」というのは厳密な表現ではありません。その「ばらつき」に意味があるのかないのかを客観的に検証する必要があります。そこで、「ばらつき」の意味を知るために、全国と福島県の間の白血病年齢調整死亡率における有意差の有無を検証してみます。

 

現在の福島県の人口は約185万です(2020年2月13日現在)。この人口をモデル人口として、「人口×死亡率/100,000」で、白血病死亡の実数を算出します。

 

算出した実数を分子、人口約185万を分母として、母比率の95%信頼区間を算出します。算出にはカシオの計算サイトを用いました。母比率の95%信頼区間をエラーバーで表したのが次のグラフです。

 

エラーバーが全年を通して全国の白血病死亡率を跨いでいることがわかります。このことから、全年にわたって全国と福島県の白血病年齢調整死亡率の間に有意差は存在しないことがわかります。

 

「さくらんぼを摘む」ということ

 

一方で、こういうグラフを見ると、その一部分だけに注目しておかしなことを言う方がいます。たとえば、2016年から2018年だけを切り出して「福島県では白血病死亡率が増えてる~!」とかです。

確かにこの期間だけを見たら福島県で白血病の死亡率が増えているように見えます。しかしながら、ここまで全体を俯瞰してきたみなさんなら、この「増加」は「ばらつき」の範囲であり、その解釈はおかしいと判断できますよね。

 

この解釈が成立するなら、2013年と2014年だけをピックアップして「福島県では白血病死亡率が減っている。ホルミシス効果だ~!」ということもできます。前者と同様にみなさんはこの主張に合理性がないことは理解できるはずです。

 

 

このカテゴリの話に限らず、このように一部分だけを切り取って、おかしな解釈をする方が散見されます。そういう行為を「さくらんぼを摘む」とか「チェリー・ピッキング」などといいます。すなわち、自分の主張に都合のいい一部分だけを切り取ってデータを解釈することです。このように「さくらんぼを摘む」行為は、自然科学においては本来、忌み嫌われる行為なのです。くれぐれも慎みましょう。

 

まとめ

 

ここまで見てきたとおり、福島県で白血病による死亡率におかしな傾向はないようです。このことは、初期被曝推計値(PDF)や事故後の個人線量測定(pdf 4頁)が低いことと合致します。本当に良かったです。