高校三年の夏、この人と再会をしていなかったら違った人生を送っていたであろう、私にとってはキーパーソンの仮名マッキーさん。
マッキーとは高校生になる春、予備校で知り合った他校の同学年。背は小さく痩せ型。走るのが得意、陸上が好きということで仲良くなった。その当時、彼女も私も海外に憧れ、進学は留学かなーなんて漠然と言っていた。
それから2年半後の高校三年の夏、留学なんてことは頭からすっかり抜けた頃、偶然にも彼女と予備校で再会。「きゃー、久しぶり!!元気だった?今でも走ってるの?私は最近、走りよりもダンスに夢中なの!」と、よくあるキャピキャピ高校生のはしゃいだ再会風景。
そして、話したいことも一通り喋り終えた頃、
「あのね、私見せたいものがあるんだ!」と彼女は鞄の中をあさりながら、
「私、こないだの春休み、ゴマアザラシの赤ちゃんが見たくてね、行ってきたの~」
へぇーーーーゴマアザラシの赤ちゃんねーーーー
池袋?江ノ島?鴨川?
「あった!これがその時撮った写真」
と手渡された写真で、私の運命が大きく変わったのです。
一体、どこまでゴマアザラシの赤ちゃんを見に行ったのよ!!!
「カナダのケベック州モントリオールまで行って、そこからまた飛行機でマドレーヌ島っていうところまで行ったの。宿の人にゴマアザラシの赤ちゃんが見たい!!って言ったら、それはここから(宿泊先)から数キロ先のヘリポートまで行って、ヘリに乗って行くんだよって教えてもらって、宿の人にはヘリポートまで歩くのは無理だって言われたけれど30分かけ歩いて行ったよ。そしたらヘリの操縦士がいてね、どうしてもゴマアザラシの赤ちゃんが見たいってお願いしたら、「君はどこから来たんだい?」って聞かれたから「日本から来ました!!」って答えたら、「じゃあ明日の朝またおいで。特別に連れて行ってあげるから」って。それで念願のゴマちゃんと写真が撮れたの!!本当に真っ白でふわふわで、目がクリクリですっごい可愛いかった~!!」
真っ白でふわふわ、目がクリクリですっごい可愛いかった~、キャピ!!って言うところだけは女子高校生だけど、あとのセリフは探検家。なんなの、この女子高校生!?
ヘリの操縦士も、アジア人小学生のような幼顔の女の子が突如現れ、日本からゴマアザラシの赤ちゃんを見に来ました!なんて言われたら、事前予約を入れてなくてもヘリを出してくれるでしょう。
兎に角、彼女の話は高校三年の私にとっては衝撃的だったのです。
あの頃私が一人で、家族や友人と旅行した以外に、たった一人で行ったことのある一番遠い場所は
祖父母のいる埼玉県
そして隣にいる同級生の彼女は
ゴマアザラシのいる北極圏
遠くへ行けばいいってわけじゃないけれど、それでも考えてしまったのです。
そして何が一番ショックだったかと言うと、私はただ漠然と留学を考えていたから英語の勉強も特にせず、ただ怠けながら英語が話せたらな~と理想だけを抱いていた一方、彼女はマクドナルドでバイトをしてお金を貯めては夏休みや春休みを利用し短期留学をしていたのです。この自立心があるか無いかは勉強だけでなく、さまざまな意味で大きな溝を生んだのです。あの時はもう一度、高校生活を一年生からやり直したいと、心の底から思いました。彼女がキラキラ輝く大人に見えたのです。
それから、心を入れ替え真剣に将来を考え始めました。
留学となれば日本語で勉強できるうちにちゃんと勉強しないと、食事も自分で作れないと、洗濯も自分でやらないと、と彼女から遅れをとった2年半後に考え行動し始めたのです。
そして96年の春、私はカナダのトロンとへ語学留学。
英語に問題の無かった彼女は、アメリカのボストンにある大学へと進学
と、なるはずだったのです
が
しかし
ここにも、かかと落としを食らったような結末があるのです。
高校生活もあと僅かという1月、彼女と会うと酷く怒った様子で
「うちのお父さんが突然、『アメリカのボストンなんて、そんな遠いところへの留学は許さないぞ!!!』ってお正月に怒鳴って、喧嘩になったの。
もう入学だって決まっているのに、
ほんとーーーーーーーーーに、
ほんとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーに頭にきて、
だから言ったの
そんなに遠くへ行って欲しくないって言うなら分かったわよ
韓国へ留学するわ!!!!

だからEribull、私アメリカじゃなくて韓国へ行くって決めたから!!!」
え~~~~~ーーーーーー
私の頭の中の地球儀がキュルキュルキュルって音をたてながら回転しました。
お父さん、お正月だから酔っ払って、つい寂しくなって言ったんじゃない?
ボストンが駄目だったら、もっと日本に近い西海岸だってあるじゃん?
ハワイだってあるのに、なんで急に韓国になっちゃうの!?!?!?
今だったら、この韓流ブームにのって韓国へ留学しようと思う人も多いだろうけれど、あの頃の韓国人留学生といえば女性はヘビメタがお好きなのですか?と問いたいくらい、皆揃って黒の口紅。男性の髪型は軍人カットか、頭の1/4は刈込んで、3/4はサラサラのボブカット。アメリカ映画に出てくるアジア人俳優、それも脇役の中のカス役がしているヘンテコカット。そしてファッションは決まって、トレーナーの中央にでかでかとブランド名、TOMMY HILFIGER / POLO / EMPOLIO ARMANI / NAUTICA / FILA など。さすがにMICHIKO LONDONは見なかったね。
兎に角、彼女があっさりアメリカ留学を諦めたのは驚きだったけれど、なぜ韓国行きに決めたのか、実は思い当たる節が一つあったのです。
それは彼女がゴマアザラシと写真を撮った白銀の世界の後に語ってくれた、ボストンでの銀河パラダイス。
マドレーヌ島でゴマちゃんと戯れた後、1週間の語学留学でボストンへ行った彼女は、そこである人と知り合ったのです。
30歳の韓国人男性。
ゴマちゃんも刺激的だったけれど、30歳の韓国人も刺激的だったようで・・・
そういう意味でも、彼女は大人だったのです。
高校三年の冬、人は誰からどんな影響を受けるか分からないな~、と感慨にふけるのでした。
間違いなく一つ言えるのは、彼女も私も
多感な年頃
の女子高校生だったのです。私が留学した年の冬に、彼女はカナダに韓国から遊びに来てくれました。
彼女の韓国語の方が私の英語よりも流暢だったのには、再び驚き、悟りました。
恋心って偉大
翌年、彼女から届いた手紙には
「3月から○○女子短期大学に入学することが決まりました!
専攻は英文科です!!」
彼女とは連絡が途絶えてしまって十数年。
マッキーのことだから、今頃、韓国人と結婚してアメリカで暮らしているか、韓国系アメリカ人と結婚してインドで語学学校を開いているか、はたまた独身でペンギンと南極で戯れているかもしれません。
マッキー、今でも記憶に残る大切な友人の一人です。





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』と怒られてね」
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