ジャン=マルク・ルイサダ
ピアノリサイタル

平成30年9月30日土曜日
紀尾井ホール

プログラム

ショパン 4つのマズルカ op.24 第14〜17番
シューマン ダヴィッド同盟舞曲集op.6

ショパン 幻想曲 へ短調 op49

ドビュッシー 
映像第1集
水の反映、ラモーをたたえて、運動
映像第2集
葉ずえを渡る鐘、
荒れた寺にかかる月、金色の魚




今から二十数年前、サントリーホールで
この方のリサイタルを聴きました。

どんなプログラムだったか、
もう覚えていませんが、アンコールで
弾いたモーツァルトがとても良かった
ことをはっきり覚えています。

ピアノを諦めて久しいころでしたが
今、思い返しても、演奏会のトキメキは
忘れられないものです。

今回も楽しみにしていました。

そんなところに台風ですよ💨
しかもでかい。

幸いにして進みがゆっくりな台風ゆえ
無事に帰ってこれました。

客席は二階も含めて、ほぼ満席。
人気の高さをうかがわせました。


ご本人、楽譜を大事そうに抱えて
ステージに現れ、メガネを替えてから
弾き始めました。

(通常は客席の照明が落とされるのですが
   明るいままでした。)


ショパン 4つのマズルカ

弾き始めるなり、ぐわっと、その世界に
引きずり込まれました。

目に見えるのです。

ショパンの物語が…

ショパンの何のストーリーかは、はっきり
とは掴めないのですが、すぐそこで、
そう、サロンで弾いているかのような…

憂いなのか、懐かしさなのか…
ショパンの人生を感じさせる歌い方。


そして、たぶん、この方がフランスの
方だからだと思うのですが、
漂う空気にエスプリを感じるのです。

それが、このマズルカをとても洗練
させたものに仕上げているように
感じました。

本日の演奏の中で、会心の出来だったと
思います。

ダヴィッド同盟舞曲

全体の印象として、柔らかく包むような
温かさを感じていました。

時にそれは、少し輪郭が見えにくい演奏
のように感じますが、豊かさは感じます。

この舞曲集で印象的だったのは
甘いメロディーの音色です。

時折、少しきつい感じもありましたが
艶やかな丸みのある音でした。

ショパン幻想曲

プロのピアニストでも難曲と言わしめる
壮大でありながらもドラマチックな曲。

それでも素晴らしい演奏でした。

ドビュッシーの映像

実は少し、退屈さを感じたりもしました。

私の集中力が落ちてきたからかも
知れません。


「運動」と「金色の魚」は音の重なり
が激しいので、この方のキレのあるタッチ
が生きていました。

あとは少し混沌として、時間の流れの
中にいた感じでした。


そして、アンコール。

第2曲にショパンの華麗なる大円舞曲を
弾いたのですが、聴いて、やっぱり
この方はショパンを弾くと素晴らしく
生きてくるなと感じました。

音量を抑え気味にしながらも
多彩な色で、それぞれのフレーズを
奏でる様は、まさにサロン音楽。

とても素晴らしかったです。


一度、そでに下がられて、再び現れた時は、
楽譜を回収しに来た感じでした。

しかし聴く側は期待します。

本当は予定していなかったのかな…

最後にモーツァルトを弾いて、静かに
ピアノの蓋を閉めました。

その仕草がとても愛らしかったです。


ルイサダさんはメジューエワさんと
同じように、全曲、楽譜をご覧になって
弾かれました。

途中、流れが悪いところもありましたが
譜面は置いても、ほぼ暗譜で演奏されて
います。

なんとなくですが、堂々と、その世界観
を表現するための道具なのかなと
思いました。

還暦を迎えたルイサダさん。

譜めくりの女性に一番最初にお礼をし、
そして客席にご挨拶する様に人柄が
偲ばれます。

温かい人柄が音になって
聴かせてくれた
ピアニスト。

1985年のショパンコンクールで
第5位に入賞された式典で
小山実稚恵さんと本当に嬉しそうに
微笑んでいたことが、
ついこの間のことのように思い出されます。

その人柄は二十数年前、ピアノの陰に
隠れてしまう席で聴いていた私たちにも
視線を向けてご挨拶してくれた
そのままでした。