運良く扉を見付けても電流が1、2度流れます

そのノブに手を掛けるのはお勧めしません

一度入ったら主人が追い出すまで出られない恐れがあります

それでもあなたが扉を探し

そのノブを回して入ってくるのを

灯りもない小さな部屋で

涙を乾かし待っています


焼けたアスファルトが煙る

蓋をした灰色の雲が落とす雨

泣けない僕の代わりに泣いて


どうやって誤魔化してきたんだろう

指先に身に覚えのないまま滲む赤

脈に乗せて伝わる痛みが

臓器を押し上げて喉を塞ぐ

昨日浮かんだフレーズは夢から覚めると消えていた


海のない街で育った僕は

海が恐くて仕方がなくて

酸化した痛みを流す術を知らない

大事に守ってきたお姫様が

涙目でこっちを睨んでるんだ

優しいあなたは決して

僕のせいだと言わないけれど


青と灰色が混じった空はもうすぐ暮れる

人工灯が照らし出す雨の日のような街で

今日した呼吸を数えては

誰そ彼に分からないけど

「ごめんね」

とまた命を食む
どこにいる?

1時間先の駅にあるマンション?

営業電話ばかりの窓際?

3年前の写真の中かな?

今日はどこ?

本当の私はどこにいた?
また歳を取ったと嘆かないでね

また何も出来なかったと責めないでね

今日だから寂しいと言えない君へ

生まれてきてくれてありがとう

生きてきてくれてありがとう

ほら もうすぐ今日が終わる

だから安心して眠れ
ハイヒールはいつもひとりきり

カツンカツンと夜を反響して

小さな部屋の前で消える

「ひとりだから寂しくない」

ハイヒールを脱いだ君は

いつもよりずっと幼く見えた