私が彼に恋をしたキッカケは、中学に行く途中の車の中で父が見せてくれた尾崎豊のミュージックビデオだった。

繊細そうな非常に整った美しい顔をした青年が、がむしゃらに歌をうたっていた。
私は彼を見た瞬間、全精神が彼に向けられ、この人こそ私の求めていた男性だ、という衝撃に襲われた。
これこそ一目惚れというものだろう。
その日から私は彼のミュージックビデオを何度も何度も観るようになった。
彼の全CDも手に入れて、彼に関する書籍や写真集、インターネットの情報、彼の書いた小説やエッセイ、彼の奥さんが書いた本、彼の周囲の人が残した本を読み漁るようになった。

彼の人生の事なら全て知りたいと思った。

残念な事に私が彼に恋をした時、彼はこの世にいなかった。

それから私は「死」について非常によく考えるようになり、どうしたら彼に会えるのかばかり考えるようになった。

彼に関する本を読むたび私は彼といくつものの共通点がある事に驚いた。
彼もまた境界性パーソナリティ障害を患っていた。彼の書いた小説やエッセイを読む為、私は彼の気持ちが痛いほどわかり、いつしか自分と彼を重ね合わせるようになった。

彼は人から見捨てられる事を非常に恐れ、人間関係で様々なトラブルをおこし、他者も自分も傷つけてしまっていた。
それはその頃の自分と同じ行為だった。

しかし彼の生み出す音楽は、本当に素晴らしいものだった。
私は彼の音楽を狂ったように何度も聴き、ビデオやインターネットで彼のライブ映像を何度も観て、彼に浸っていった。

そして彼に対する想いをインターネットの繋がらないノートパソコンやケータイに綴るようになった。
それが傷ついた私の心を癒す唯一の方法だった。

その文章の数は凄い事になり、本を一冊か二冊ほど書ける量になっていた。
(残念ながらその文章データーは失ってしまった)

私は家族にも彼について共有を求めるようになり、母は私と一緒に彼の音楽を聴いたり、彼の本を読んでくれるようになった。
私はそれが本当に嬉しかった。
彼が遺していった音楽や文章は、私の心を代弁してくれていた。
そして溝があった母との関係をたくさん埋めてくれた。

彼は私にとっての唯一のアイドルだった。


ちなみに私かアイドルデビューをした20代後半には何度も彼の家の前まで行って彼を懐かしんだ。

その時、彼の家の前で撮った写真もあるが、それはいつか公開しようと思う。