嫌な湿気が世界を包んでいる。湿気を含んだ雨が濡らすアスファルトをはじく様に車は走る。

信号待ちで、横の歩道に眼をやると、沢山の人がうつむきながら歩いている。

そんな光景をボンヤリと見つめ、ここを歩いている人たちは、いったいどんな人生を歩んできたのだろうと、考えていた。


生まれ落ちたその日から、今までどんな事を見て、誰と出会い、どんな経験をしたのだろうか。

人は、生涯の中でどれだけの事を経験し、どれだけの事を犠牲にするのだろう。


そんな取り止めの無い事を考える僕の背後から、やかましく鳴り響いたクラクションで、我に返り慌てて車を走らせた。


街の一等地に建つビルの中に、僕の勤める会社はある。

そこで、営業の仕事についている。長く働いたせいなのか、どうかは分からないが、

そこそこに出世し、肩書きもついた。


デスクの上には、前日に置いておいた、自分のすべき事や1日のスケジュールをまとめた紙が

ある。目を通し、一息ついて、頭の中のスイッチを完全に切り替えるために、タバコを吸いながら

仕事のことを考えていると、同僚や部下達が、うつむきかげんに続々と出社してきた。