8月9日 16時過ぎに

病院に息子が嫁と孫たちを

連れて来てくれた


亡くなったというラインを見て

家に戻って嫁たちを連れてきたそうだ

「お義父さんー」嫁が号泣する

その肩を抱きながら

息子も泣いている三人で

抱き合うようにしながら泣く


少し遅れて娘が到着

ポロポロ涙を流し夫も見つめる

「眠ってるみたい」

 

息子と娘は医師から

もう一度詳しい説明をしてもらう

二人ともうなずきながら

聞いている・・けど

現実味はないよね?

あの元気なお父さんが

死んじゃうなんてね

 

看護師さんが

葬儀屋の手配について

息子に聞いている

動揺している私の様子を見て

私には聞けなかったようだ

 

自宅近くの葬儀屋に

息子が連絡取ってくれた

ここから夫を運ぶには

往復2時間はかかる

結局、病院を出たのは

19時を過ぎてからだった

 

長い長い一日

所々 記憶も飛んでいる

あの時

孫たちはどう過ごしていたのだろう

3歳と1歳の孫たち

泣きもせず

いい子でいてくれたのかな?

嫁が苦労してあやしていたのかな?

 何も無い待合室で

ただ待つだけの長い時間

お腹も空かせていただろうに

殆ど 気遣ってあげられなかった


帰る時になって

夫の元上司がまだ残っていて

くれたことにやっと気づいた


夫の友人がわざわざ

来てくれてたことにも

その時やっと気づいた

 

元上司は色々気遣ってくれて

仕事関係や友人には

自分が連絡するから

できることは何でもするから 

これからが大変だからがんばりなよ 

と言って帰っていった

 

夫の友人は娘と嫁や孫達を

家まで車で送ってくれた


息子と私は

夫を葬儀場に運んで

簡単な打ち合わせをする


まだ建って間もない

葬儀場なので何もかも綺麗だった

その日から泊まってもいいと

言われたが 病院から直接来たので

何もかも朝出掛けた時のままだ

葬儀屋さんに相談すると

今日は帰られて

明日の朝きてくださっても

構わないですよ

と言ってもらえた

 

夫は葬儀屋で

一晩一人で過ごすことになった


喪服や色々用意するものが

私が帰らないと分からないし

後飾りを作ってもらうところも

準備しなくてはならない

突然連れてこられた孫たちの

様子も気になるし


お父さんごめんね


明日はみんなで泊まるからね

今日だけ我慢してね

そうして葬儀屋を出たのは

23時をまわっていた


家に帰って 喪服の用意をしたり

洗濯したり 食事を作ったり

休むことなく動いていた

横になっても身体がふわふわして

自分の身体じゃないみたい

 

結局一睡もできず

葬儀場の夫のことが気になる

やっぱりあっちに泊まれば良かった

一人にするんじゃなかった

戻ろうにも 一人でまともに

歩ける自信もなくて

夜が明けるのを待った


今 この起きていることは

現実なのか

今日 一日のことを色々考えてみる


まるでドラマのような非現実


きっと明日になれば

きっときっと冷める夢

こんなことが現実のはずがない

そんなことばかり考える

 

翌日10日の朝 

息子と二人葬儀屋で

通夜と葬儀の打ち合わせをした

何もかもその日のうちに

決めなくてはならない

遺影にする写真をスマホの中から探す

 

二年前 私の直腸に

悪性腫瘍が見つかった

幸い初期で

取り除く事が出来たのだけど

その時 終活を意識して

口座の整理をしたり

書類を確かめたり

どこかに行くときはなるべく

夫婦 二人で

写真を撮りあったりしていた

こんなに早く必要になるなんて

思っていなかったけど・・・

 

14時から湯かん納棺の儀式


丁寧に身体を洗ってもらい


シャンプーしたもらい

ドライヤーで髪を乾かし整えてもらう

死に装束じゃなくて

好きな服を着せていいと

聞いたので家から

ゴルフ用のズボンと

ポロシャツを持ってきた


ひげも綺麗に剃ってもらって

少しメイクもしてもらって

お父さんらしくなったね


良かったね


綺麗好きで仕事から仕事から

帰ってもすぐお風呂だったもんね


良かったね

 

ほんとに眠ってるみたい

よく寝た~って起きて来ないかな

 

娘が「お母さん水飲みなさい」と

小まめに差し出す

空腹ものどの渇きも何も感じなかった

無理にでも少しでもいいから

飲んでと娘に言われるまで

気付かなかった

電話をもらってから

ずっと今まで何も飲み食い

していなかった

飲もうと思ってものどを通らない

 

19時から通夜が始まる

家族葬にしたのでそれほど

弔問客もいないだろう

会社の人達がチラホラ

来てくれたが挨拶する余裕もない

夫の兄弟たちが夫婦で来てくれた

夫は5人兄姉の末っ子

一番若いのに・・


私と夫は9歳年が

離れているから喪主の息子は

他のいとこ達より一番若い


私達は 宗教のことも分からない


義兄に色々聞きたいが

一番下の弟の死はショックが

大きかったようで

聞けそうもない

 

何とか葬儀屋さんの力も

借りながら式を進める

何とか通夜が終わって

息子の家族と娘と皆で

一緒に葬儀屋に泊まる

 

翌朝10時から本葬が行われた

ちょうどお盆で遠くに

嫁いでいる姪っ子達も

里帰りしていて参列してくれた

幼いときかわいがってた姪っ子達

生きている時に会いたかったよね

でも親戚が集まるの

こんな時なんだよね

 

実は101歳の義母は

老人ホームに入ってはいるが

まだ元気だ

夫が亡くなったことは

伝えないらしい

6月に会いに行ったのが

最後になってしまった

 

告別式も終わって

小さなお骨になって戻ってきた夫

大きな人だったのに

こんなに小さいの?

本当に

もういなくなってしまったの?

 

無事に見送ることは出来たけど

どこかに忘れ物をしたような

苦しい 寂しい

まだ夢の中に居るようだ

こんな悪夢 早く覚めて欲しい


きっと明日になったら

隣で寝ているはず


おはよう~って優しい声で

言ってくれるはず

きっと

きっと

 

でもこれは現実

一生覚めない悪夢

 

これから どうしよう

 

もっと ずっと一緒に生きて

年を 取って

貴方の介護が必要になったら

リビングに介護ベット置いて

一緒にゆったりと過ごそうね


私は両親と兄と3人も

介護したから

貴方の介護も上手に出来るよ

任せてね

 

そんな話をしたこともあったね

 

友達が言ったの

そんな苦労するあなたを

そばで見て来て 

あなたにもう苦労させたく

なかったんだよと

 

それでも生きていて欲しかった

貴方のぬくもりを感じて居たかった

 

せめて最後に貴方と話したかった