2023年8月9日 

突然夫が亡くなった

 

あの日 ゴルフに出掛ける夫に

トーストとサラダと

スクランブルエッグとベーコン

ヨーグルトと珈琲の簡単な食事を出して 私は 娘のお弁当を作っていた

6時30分「行ってくるわ」と夫

いつもなら玄関まで見送って

「いってらっしゃい」

とキスをして見送る

それが結婚してからの習慣だった

 

なのにその日に限って

「行ってくるわ」の声を

聴いただけで見送らなかった

娘のお弁当に入れる唐揚げを

揚げていたから まぁいいか

そう思ってしまった


私もその日 

久しぶりに会う友人と

ランチに出掛ける予定だったから

朝はバタバタしていた。

それでも いつもの朝 

また夜には帰ってくるし 

そう思っていた

 

 

なのに・・・

 

久しぶりに電車で出かけ友達と

待ち合わせて

お店に入り注文したランチが

届いた時に電話が鳴った

見ると夫だ

どうしたんだろう珍しいな

 

電話に出ると

相手は主人ではなく

元会社の上司だった

その日 

誰と一緒にゴルフをしているのか

知らなかったので

休憩時にふざけて

かけてきたのかな

そう思って明るい声で電話に出ると

「ご主人が倒れてね」

「あーすみません。ご迷惑おかけして」

軽く返す私・・・

ちょっと体調悪くなったのかな?

そういえば 朝

珍しくヨ−グルト残していたな

なんて考えていた

すると

「旦那さん 心肺停止でね 

たまたま次のグループに

お医者さんが居て

心臓マッサージしながら

救急車呼んで

 

それでも間に合わないからドクターヘリを呼んだんだ 

 

今病院に運ばれてそれを

僕も追ってるところなんだ」

 

えっ?何どうゆうこと?

頭が追い付かない

心肺停止?

ドクターヘリ?

 

「とにかくこっちに来てくれる?」


「病院はね・・・・」


聞きながら現実味はない

ただ体がフワフワする

 

友人に説明して二人とも

運ばれてきたランチにも

手つけないままお店を出た

会計を済ませた友人が

駅まで付き添ってくれた

「大丈夫だよ  

 お医者さんがいてすぐに

 心臓マッサージしてくれたんだから

 きっと助かるよ 

 ちゃんと電車乗れる?」


「うん・・大丈夫ちゃんと行けるから  

 迷惑かけてごめんね」

 

そう言って友人と別れたが

動揺して 

電車に乗ることが中々出来ない

この電車でいいの?

判断がつかない  

いつもの私なら

こんなに迷わないのに

 

倒れたのは山奥のゴルフ場

旨く電車に乗れても

2時間近くかかる

早く行かなきゃ気持ちばかり

焦るのに どの電車に乗れば

良いのかも分からない

何とか電車に乗って

 

途中 タイ🇹🇭に単身赴任中で

たまたま仕事で帰国していた息子に

ラインで連絡する。

 

 

お父さんゴルフ場で倒れたらしい

心肺停止だって

お母さんも向かってるけど

出来ればこっちに来てほしい

 

指が震えて旨く文字が打てない

 

息子のラインには既読が付かない

 

仕事中なので無理かな

嫁にも連絡するが中々既読にならない

 

娘は仕事中スマホ見れないけど 

倒れたとだけとりあえず

ラインで送っておく

 

病院の最寄り駅に着いたのは

13時を過ぎていた

連絡してくれた

元上司が迎えに来てくれた

 

病院についてしばらく待ったが

中々夫に会えない

やっと診察室に呼ばれると

そこにも夫の姿はなく 

医師と看護師が

神妙な顔つきでこちらを見ている


「ああ かなりひどい

後遺症が残るのかな」

そう思って覚悟した

 

「すみません 主人は…?」

 

言いにくそうに医師が口を開いた


「ご主人はもう亡くなっています」

 

え?え?


なに? どうゆうこと?


何も理解できない

周りの景色が歪んで

空気が真っ白になって

遠くで説明する医師の声がする

 

「致死性不整脈が起きて

 急性心筋梗塞で亡くなったものと

 思われます

 こちらに到着した時には

 もう何もできない状態でした」


丁寧に説明してくれるが

もう 何も 頭の中に

入ってはこなかった

 

「主人に会えますか?」 

やっとの思いでそう口にする

きっと何かの間違いだ 

絶対生きてる 生きてる

 

「じゃあこちらへ」

看護師に案内された

隣の部屋に夫は寝かされていた

ほんとに眠っているように

そこに 居た

 

「お父さん…」

顔に触れると

びっくりするくらい冷たい

「お父さん起きて 帰るよ 

 お父さん起きて…」

 何度も

 何度も

起こそうとするけど

ピクリとも動かない

 

嘘だ 嘘だ


あんなに元気だったじゃない

人一倍大きな体で

病気もしたこともなくて

持病もなくて

定年を迎えても

再雇用で5年も働いて

もう年金ももらえるのに


もう一度仕事見つけて

働き出して2年目

現場の仕事 楽しいんだ

やりがいがあるんだ

70過ぎても会社が来るなと

いうまで働くよそう言ってた


たまに好きなゴルフに行って

かわいい孫たちと遊んで


たまに夫婦で出掛けて

平穏な幸せな日々

 

どうして?

なぜ?

これは夢?

 

看護師さんが優しく

向こうの部屋で休んでくださいと

私を促す

家族は息子さんだけですか?

他に連絡する家族はいませんか?

ひとつひとつ問いかけてくれる

娘に連絡しなきゃ 

夫の兄にも 

それから??

冷静にならなきゃ 

しっかりしなきゃ


「お父さん亡くなってた」


何とか連絡して

息子と嫁たちにこちらに来てもらう

娘の職場にも連絡して

こちらに来てもらう

 

一人でみんなの到着を

待つのは長くて辛かった

現実味がなくて

体がフワフワして

立っていられなかった


これが夢ならば

早く目を覚まして

こんな悪夢要らない!!