「…対象は、どんな方ですか?」







「ちょ、実彩子ちゃん!」















鉄の仮面を被った彼の表情からは、何も読み取れないと分かった。





なら、この話を進める他ないじゃない。



















「さすが、話が早くて助かります」

















また隙のない微笑みを貼り付けたと思えば、スッと名刺を差し出される。














「申し遅れましたが、私 anix-βのマネージャーをしております」














anix-β…





最近縁のある会社だな。
















「警護して頂きたいのは、来月メジャーデビューを予定している、うちの新人アーティストです」










「アーティスト…」











「その仕事、実彩子ちゃんじゃなくて俺にさせてくれませんか?」














「それは出来ません」












「何でなんですか!?警護なんて危ない仕事、男の方が向いてると思うんですけど」













「これは、宇野実彩子さんに依頼している仕事です」









「だからそれが












「あ、あの…」













真司郎がまたヒートアップしそうになるのを止めるべく、浮かんだ疑問を投げかける。















「その対象の方は…私と関係のある方なのですか?」
























少しの間、沈黙が流れる。








切れ長の瞳が、鋭く私を射抜く。












けれど、待っていた答えではなく、逆に質問が帰って来たのだった。



 















「貴女は、対象者を愛さないと約束してくださいますか?」











愛…?















「彼は、うちを背負うスターに育てるつもりです。恋愛沙汰は避けたい」











「お察し致します。…が、その点については問題ありません」












私はもう、愛なんて感情持ってない。















「…それは、最愛の人を亡くしたからですか?」














頭を殴られたような衝撃を受ける。




なんで?
  



なんでこの人…















「だから…もう誰も愛せない、と?」














震え出す手



嫌な音を立てる不整脈




呼吸の仕方がわからない









私の中で、時が止まる。

















「うちの日高を使って試させて頂いたので、ある程度は信頼できるのですが…」









「やっぱおかしいと思っとったけど、あんたら何が目的や!!」











試された?




















「もしその人が、今もまだ生きていたとしたら…」






「待って、ほんまに頼むからそれ以上は言わんといて!!」














ねぇ…何を言っているの?













「貴女はその人を愛しますか?」




















真司郎の叫び声




差し出された1枚の紙




貼られている1枚の写真…









封じた記憶の扉が強引に開かれる

















「西島隆弘。貴女に警護をして頂きたいのは、この者です」














積み上げてきたはずの5年間が、音を立てて崩れていった。