こんにちはタモギ博士です。
さて今週も先週に引き続き、こちらのシンガポール国立大学の論文を見ていきましょう!!
これは酸化ストレスにより肝臓はどれだけダメージを受けているかを見ています。
前々回血管内皮細胞の実験を振り返れば、コレステロール量が増えれば当然酸化ダメージが増えていそうに思えますが、実際のところどうでしょうか。
Fig4
【肝臓の酸化ダメージ(F2-isoprostanes)】
イソプラスタン(Isoprostane F2)は細胞膜やリポ蛋白に含まれるリン脂質が フリーラジカルにより酸化されて形成されるプロスタグランジン様の化合物です。よって(A)ではこれを測定し、肝臓内酸化ダメージを調べています。図を見ると6ヶ月目のIsoprostane F2は増えているようですが優位さはありません(笑)。ちょっと強引な気もしますが、よって酸化ダメージはないと言えます。
【肝臓の酸化ダメージ(カルボニル化タンパク量)】
タンパク質が活性酸素により酸化されるとプロリン(Pro)、アルギニン(Arg)、リシン(Lys)、スレオニン(Thr) 残基のカルボニル化が起こります。よって(B)ではカルボニル化したタンパク質量を測定し、肝臓の酸化ダメージが分かります。これは一切文句なしに、どれもカルボニル化したタンパク量に優位な差は見られませんので、酸化ダメージはないと言えます。
そして次のFig5では、コレステロールでダメージを受けるであろう肝臓がSOSを出すかどうかの実験です。ここではSOSをOCTN1の発現だけでなく、RUNX1の発現も同時に見ています。このRUNX1というタンパク質は、OCTN1の遺伝子であるslc22a4に結合し、OCTN1のプロモター活性の調節を行います。つまりRUNX1が沢山発現されればOCTN1も発現されるわけです。そしてこの実験ではmRNAでその発現量を追っています。
【OCTN1・RUNX1の発現量】
ここまで来たら当然かと思いますが、どちらもちゃんと発現していることが分かります。
つまりコレステロールが溜まるとRUNX1が発現され、OCTN1も発現され、何としてでもエルゴチオネインを取り込もうとします。まさしくレスキュー隊としてのエルゴチオネインの働きがここでも証明されましたね。
次はHSP70とエルゴチオネインの関係です。これは私も初めて知りました。そもそもHSP70とはヒートショックプロテインと言われるもので、体にストレスがかかると細胞中のちゃんと折り畳まれていないタンパク質を畳み込み、変に凝集とかしないようにする働きがあります。そしてエルゴチオネインがこのHSP70の発現に関わっており、HSP70がどれだけ発現しているかを見ています。
Fig6
【HSP70のタンパク発現量】
これはコレステロールの高い餌を6ヶ月間与えたもので調べています。
(A)のバンドの太さでタンパク質の発現量を見比べています。それを数値化したのが(B)ですので、こちらを見ると、HSP70が発現していることが分かります。Fig2やFig3のように、エルゴチオネインと相関性を示してくれると良かったですが、これまでの流れからそれは容易に想定できますよね。
それではこの論文を簡単にまとめると脂肪肝になると、肝臓細胞のダメージはありますが、OCTN1↑・エルゴチオネイン↑・HSP70↑となり酸化ストレスによるダメージが軽減されていることが分かりました。まさにエルゴチオネインのレスキュー隊としての働きがよく分かりました。
さて約3ヶ月に渡り、レスキュー隊シリーズを血管内皮細胞・腎臓・肝臓で見てきましたがいかがでしたでしょうか。
個人的にはHSP70との関係についてもう少し掘り下げてみたいと思いますので、またお付き合いください!!
それではまた次回!!