PPP・・・
「今、○○駅だって。メール来た」
「あら。○○駅って。やっぱり遅れたのね。どの電車なの?」
「乗れたって書いてあったけど。」
「今?○○の駅出たわよ?」
そうだね。ちょうど発車したところだ。
「じゃ、Kさんは今、駅着いたのよ。一本遅いのよ」
そうなんだーと一同、低い声で同意した。
一本早いのではないか?同じ電車では?という発想はないらしい。
「どうする?小田急で待ち合わせする?」
「だめよ。Kさんは小田急なんて辿り着けないわ。小田急もきっと乗り過ごすのよ」
「そうね。Kさんのせいで指定席座れないのよ、きっと」
あなた達のシナリオは、『Kさんのせいで遅れる』、気の毒な仲良し4人組ができているのだろう。
「じゃ、JRの改札にする?」
「あの人、JR来られるかしら?」
いや、この電車は終点まで行けば確実にJR線に乗り換えなんですけど・・・。
と反論したくなったが、私が口を挟むとさらに炎上しそうなので、膝の上に目を落とした。
「北口の改札の先にパン屋があったじゃない?あそこは?」
「そうね。あそこのパン、うちの孫が好きなのよ」
「大丈夫?Kさん、パン屋分かるかしら?」
「あら?おいしいのに?」
「Kさんは知らないのよ、きっと。『あんまり外食しません』ってすましてたから」
「世間知らずね。」
「田舎ものなのよ」
「じゃ、パン屋じゃダメじゃない」
「でも、パン屋がいいわ。おいしいんだもの」
PPP・・・
「メール、返事来た」
「なんだって?」
一番小さいおばさんが身を乗り出してのぞき込む。
私の足にぶつかってもそんなことは些細なことらしい。
「パン屋わかんないんだって」
「えーー?どうして?」
「どうしてって、Kさん、足りないのよ」
えらい言われようだ。
「で」
「何?」
「ホームでそのまま待っていてくれって」
「何?それ?」
「待てって?私達に?」
「遅れちゃうじゃない」
「電車は乗ったって」
「いつまで待つのよ?指定席無くなるじゃない」
「どこまでわがままなの?」
「遅れておいて、待てって?」
「アタシをバカにしてる?」
三越勤務だったおばさんが声を荒げる。
「パート仲間だから、軽く見てるのよ。」
「本当に。もう二度とごめんだわ」
「アタシも。もう、Kさんが辞めるか、アタシが辞めるかだわ」
凄い話しになってきた。職を辞するまでの規模だ。
「パン屋に寄りたかったのに」
「非常識」
「田舎もの」
「失礼だわ」
4人で散々悪態をつき、私の足を蹴り、やがて電車は終点に着いた。
PPPPPPP・・・・・
「やっぱりホームで待っていてくださいって」
Kさんからのメールを読み上げながら、おばさんが口を尖らす。
「もうだめ。私、Kさんとやっていけない」
「私も辞めるわ」
「あら、あの人のせいで辞めることない」
「Kさんが辞めるべきよ」
終点でホームに人が流れる。おばさん達はボストンバッグを引き下ろしながら口々にKさんを誹った。
女性専用車から押し出される人の流れに、同じようにボストンバッグを持った一人のおばさんを見留めた。
そのおばさんは車両から降りながら、もの凄い目でこちらを見ながらホームに立った。
やがて、おばさん達もホームに立った。
おばさんの一人が頓狂な声を上げた。
「あら、Kさん!良かったわ!」
Kさんと呼ばれたおばさんは少なくとも、同じ車両から降りてきたのだ。
それからおばさん達はKさんを囲んで、今日の予定を楽しげに話し出した。
お互いの今日の服装、何を持ってきた、天気はどうだとか・・・・・
何事もなかったかのように。
でも、腕を組まれて、人ゴミの中を歩くKさんは笑っていなかった。
呼ぶより誹れ
人を呼び出す呪文なのだ。
呪文の威力に恐れ入った。