人並み。
唯一、これだけは人並みと言えるものがある。
身長だ。成人してから、日本人女性の平均身長とドンぴしゃなまま、変わらない。
身長は大人になってからおいそれと伸びたり縮んだりしないものだが、もう何十年と平均身長が変わらない事実もある。
家族はみんな、のっぽだった。
兄は180cm越えだったし、父もそこそこ。母は昔の人であるにも関わらず、高かった。。
親戚も160cmを下回る身長の者は居なかった。祖父は剣道の師範で、祖母は薙刀の名手だった。
いつまでたっても小柄な私は、家族の中で埋もれた存在だった。
魔法が使えるならば、あと10cm、背がほしい。10cm高い世界はきっとすばらしい。
小さい頃からの願いだった。
ある大手金融系の開発仕事をしていたときのこと。
その会社には関連会社からの出向者が少なからず居た。
金融系の仕事が楽に見られたのか、ある時期を境にどっと出向者が増えてきた。
ある日のこと。
開発会議に詰まった私は手を洗いにトイレに入った。
虎ノ門という地名ながら、やや内幸町に近いオフィスは瀟洒なビルで、角にあるトイレは明るい、清潔な場所だった。
個室に入っているとドヤドヤと人が大勢来る物音がした。
女性。
4~5人だろうか。
鏡の前で世間話を始めてしまっている。出向者なのか、近くにお店があるとか、駅からどう歩くとかの話をしている。・・・・どころか、これから?帰る?話しをしている。
まだ14時だった。
育児シフトの人でも16時に帰宅のはずが。
一向に、鏡の前からどく気配がないので、仕方なく、個室から出ることとした。
!!!
壁があった。
3枚の壁。
いやいやいやいや・・・・。
こんなところに壁はないぞ。
よく見ろ。
制服の桜色のベストが3枚並んでいる。
3人の女性がそこに立って鏡を見ている。
に、しても、壁?
決して狭いわけでもないトイレの洗面台の前に4人の女性が居た。
一人は背丈170cm前後だろうか?
その隣に3人、どう見ても185cm?それ以上の女性が3人居た。
「どうもぉ」
身長158cmの私は彼女たちにどう見えているのだろう?
あなたたちとは30cmも低い景色を見ている人?だと思うだろうか。
恥ずかしくなって、彼女たちが軽く頭を下げてくれる中、手を洗って、そそくさと席に戻った。
その日、出向者のうち、女性だけが
「お先に失礼します」の言葉とともに14時で退社していった。
デスクワークとは違う、別のミッションがあるのだ。
「いいなぁ。オレも早く帰りたい」
と愚痴る同僚の頭をはたいておいた。
「努力と才能が代償でしょーが!」
その現場での開発はその後、2ヶ月で終えたが、彼女たちの姿は二度と目にしなかった。
いいなぁ。
あれだけ身長があったら、見る世界が違うだろうに。
あまりのスタイルの良さに制服は似合わなかった。
ぴったりしっかり、標準服の似合ってしまう私などと違い、気品があった。非凡ゆえの気高さがあった。
「羨ましい」
その時、思った。
その年、そこの会社のバレーボールチームが解散した。
マスコミでも大きく取り上げられていた。
そこでの開発が終わって半年後位だったか。
あのとき見かけた女性たちは、ナショナルチームにも選ばれるバレーボール選手だった。
今、どんな景色を見ているのだろう。
158cmの私にも教えて欲しい。