翌日 彰が出勤し身だしなみを整え、ミーティング前に携帯を覗いたが、レナから着信もメールさえ届いていなかった。




そんな彰の後ろ姿に気付いた、あの男が近付く。




「様子が変だと思ってるんだろ?」



  『え…………?』




  「レナちゃん」




―どわッ!ひ…、柊!?

  なんだ!? 急に―



『レナ? レナは普段と変わらないですよ。それより見込み客と連絡つかないんデスよ。』



― うぉー!! 仕事嫌いな俺が見込み集客なんて大嘘ッ!

どうしたんだー俺!?




(意地張っちゃったぜ!)



『……………………。』



柊はゆっくり袖を直しながら、黙る彰に語りかける…………。




「お前の姫様は、
内に溜めるタイプだから、しっかり繋いでおかないと、手の届かない場所まで流されるぞ」




『まさか。レナに限って。』




「あんな一途に想ってくれる子は なかなかいないから、大事にしろよ」




― ど…………。どーした!? 今日の柊っ!!まるで別人じゃねーか!?




(頭…、打ったのかな?)




(だいぶキャラが違うぞ)




(まさかのハートブレイク柊失恋!?ハートブレイク)



―アイツも苦労してんだな…………。ってか。


プロなんだな柊………。

会話しなくても解るのか―



彰が声をかけようとした時には柊の姿は無かった。



(やべぇ、悔しいけど、今のカッコイイ!!メモしとこう!)




― そーいえば、レナが俺に一途なんて、いま知った―



(柊って、本当はスゲーいいヤツなのかも…………。)



 ― レナ…………。―





レナは日中 欠勤扱いとなり、警察署へ連れていかれた。



暴動を起こした男の聴取を1時間受けたが、防犯カメラの映像を何度見ても、なぜ自分の名前を知っているのか、不気味で仕方なかった。



(どうしよう…………。)



(彰さんにすぐ打ち明けるべきなの………?)




―だけど、もし 面倒くさい女って思われたら?―



―何より、店に出入り出来なくなったら嫌だ………。あと半年で20歳だから…………。半年我慢できればいい―



 (ううん…………。)




―本当は惨めなんだ。

これ以上 つまらない話し聞かせて他人に幻滅されるのは嫌。

我慢する理由は私の小さな見栄…………。


相談なんて誰にも出来ない。


話すだけ無駄だと思うくらい、自分の行動に対する自信がない―




―本当の私は弱い人間―




自宅に戻ると二通の封筒がポストに入っていた。


一通目はセミナー会場からの本契約書類と会員規約などの案内。



(あ…、こないだは仮契約だったから。)



二通目は携帯電話の請求書。




セミナー会場の本契約書類を眺めて考える…………。



(いまはセミナーどころじゃなくなっちゃった…………。)




レナは携帯の充電が無いことに気付かずに、疲れ果て眠りについた。






「彰さん見てくださいよ、アレ。」



2週間前に入店した新入りホストが彰に話しかけた。



―柊が太客以外に優しい態度だ―



「柊さんも、太客以外に気を回さないと、そろそろ、NO・1維持できないですかね?」



「ただの気まぐれだろ」



「うわぁ!彰さん言いますねー!彰さんといえば、よく柊さんのヘルプ入ってますけど、気に入られてるのにいいんですか?」



―ばーか、俺は柊に嫌われてんの―



「けど、彰さん有る意味凄いですよね」



   「なにが?」



「常に2位3位君臨の舞斗さんに、殿堂入り柊さんからヘルプ入れてもらって、羨ましいですよ!」



「そうか?お前は何も知らなくていいよな…」




(舞斗さんなんて、俺をイジってストレス解消してるし、柊は何考えてるか解らないし。)



「オレ あの柊さんの客 どこかで見たことあるんだよなぁ………。」



「柊の客なんて有名人ばかりじゃん」



「いや………。雑誌で見たんだよなぁ?あの顔………。たしか…、探偵?」



「(笑)探偵? 次の太客探しの通信網じゃねーの?そんな事より早く仕事戻れよ。」



「ちょっとオレ 柊さん影ながら追跡調査します!
彰さん一緒にNO1目指しましょう!」



「おい!柊調査なんて暗いことするなー。おーい」



―アイツ ホストより探偵のほうが向いてるんじゃないのか? おしゃべりなヤツ―



探偵の女は柊のご馳走で楽しい時間を過ごした。





光沢の映えたグレーのスーツ姿で接客をこなす柊に、本指名が入る。



柊の頭には優先順位がリストされており、金を落とさない女性はすぐ見切り、突き放すが今夜の本指名は別口で、すぐ女性の席へ向かった。



「悪いな。わざわざ指名させて。」



「ん?いーよ。こっちも宣伝に都合いいし。紹介してよね、太客(笑)」



「ああ。ま、好きなだけ飲んでいきなよ。」



「ねぇ、早速あの件だけど、柊が調査依頼した女の子 大変な事になってるわよ。柊の女なの?」



「いや、その女の友人に頼まれてな。」




「ふぅーん。友達なのに、依頼なんて世の中も変わったわね。裏で過度な心配するより、力になればいいのに。」



「何故か ヤミ金に追われてて、彼女が働くコンビニで暴動があって。仕事クビになりそうよ?これ、添付書類の写真」



「よくこんな詳細を調べたな。」




「バカね。私は探偵よ?金融トラブルや交友関係なんて簡単に解るわよ。貴方のことも調べてあげましょうか?」



「ははは。 俺を調べてもベタ惚れするだけだぜ?」



「ふふふ。調べないわよ(笑) 私 ホストに興味無いし。」



「言うねぇ。ホストも夜が明けたら、普通の男だぜ?」



「寝る 食べる 集客電話する男よね(笑)」



「このヤミ金…、出所はわかるのか?」



「さぁ?私達は金融と提携していて、リスト入りしてる名前ヒットしたやつしか解らないから。もう少し追う?」



「いや、これで十分に助け船だせる情報だから、切り上げていいよ。ありがとうな。」



「まぁ、柊って優しいのね!見ていて痛々しかったのよ。彼女、調査では家族居ないみたいだし。」



柊は調査の用紙を見つめながら、乾杯をした。








…プルルルルル…プッ


お掛けになった電話は…

電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません…



お掛けになった電話は………。



 (また、だ………。)



彰は仕事中、レナをふと思い出し、電話をかけていたが全く繋がらないまま、時間差で5件の着信を残し溜め息を漏らした。



(レナ………。なんで繋がらないんだよ)




(最近、様子が変だよな)



―やっぱりユィさんのこと許せない!?(いや、あれは事故みたいなもんだし)―



(名刺破って、元の謙虚なオレだし!!)



―だけど、話したい時に話せないのは、今回が初めてだ。何してるの?―



「今ごろねぇ、腰振ってるのよ」




  『ぎゃあぁ!?




  (ま…舞斗さん!!)




『なんスか。びっくりするじゃないですか!!いつもいつも急に背後から話しかけるのやめて下さいよ汗



「だって、今日のお前 離席多いんだもん。拓哉代表が居ないのをいいことに(笑) 女と連絡つかないんだろ。 女なんかほっとけよDASH!



『連絡取れないんですよ?何かあったかと心配するじゃないですか!!




「だぁ~DASH! 背中がゾワゾワするぜ。 お前は女々しいなぁ汗 おぇー。」




   『…………。』




―確かに…オレ女の子みたいな行動―




「だから、言っただろ?ホスト通いする女は重たい荷物だって。」




『彼女は違います!』




「とりあえず、彰テーブル戻れよ。 どーせ明日、会えるんだろ?お前が心配する以上に、フツーに来ると思うよ」



―いや…何かあったんじゃないか? 連絡とれないのは、絶対おかしい。明日 会えるんだろうか?―



 (明日に聞いてみよう)





―なんで歌舞伎町のこと知っているの―



(私が自ら話したのは、親友の美穂だけ。)



―バイト先には、一切話していないのに―



(嫌だ………。恐い…。)



「…………、橘さん?」



  「は………い」



「歌舞伎町に出入りしているのは事実だね?そこで誰かと揉めたりしませんでした?」



―揉めた?誰と?歌舞伎町と店内トラブルが繋がるように言わないで―



―ダメ。バレたら彰さんに迷惑がかかる。私 未成年だし―



   レナは青ざめ、
言葉を選ぶのに苦労したが、精一杯の言い訳をした。



「わ……、わたし。歌舞伎町は行ったことはありますけど、出入りだなんて。歩いただけで事件に巻き込まれる場所なんですか? 本当に何も解りません。」



「なら、防犯カメラ見てみて。この男に見覚えない?」



「知りません。いま始めて見る顔です。」



―この人 誰?ホストクラブのキャストというより、マフィアみたいに恐い人―



レナの事情聴取は終わり、その日は帰らされ、欠勤扱いとなった。




   店長からは




「橘さん 1週間休んで貰えませんか? こちらの状況が落ち着いたら、連絡します」



「そんな…………、店長 私 何も知らないんです。
信じてください!私にも掃除とか手伝わせてください…………。」



「いま 君がいると混乱を招くから。悪いようにしないから。追って連絡を待ってください」



―店長…………。

店長は歌舞伎町でレナが彰さんと交際してるの知っているの?


恋愛は自由じゃないの?―



(頭を下げて帰宅するしかない。)



― 一体 だれが… ―





 銀行で両替を済ませた
店長がタイミングよく店に戻ると、店内の商品棚は破壊され、ポテトチップスの袋が無造作に散らかっていた。



「ふぇ…………、て…、店長ぉぉ………。」



「な………なんだコレは」



パート社員は一部始終を打ち明けた。



 すると警察も到着し、
 事情聴取が始まった。



「はい。もうすぐ、本人が出勤しますので。」



「おはようございます」



(え?なに?この店内………。ポテトチップスが袋から出てる…………、警察もいる………。)



「どうしたんですか!?これ…………、酷い」



「橘さん、ちょっといいかな? あ。皆は申し訳ないけど、陳列直して。売物にならないやつは、バックヤードで期限切れにしてから破棄検品かけて。」



「店長 この子にやらせればいいじゃないですか。私達は被害者ですよ!」



(え…?被害者?レナのせい?何言ってるの…?)



レナは状況が全く解らないまま、パートに責められた。



「橘さんには聴取があるから、見物客が集まり過ぎないうちに早く動いて。」



「(なんでウチラが………。)」



「貴女が橘レナさん?○×警察ですが、実はね橘さんの知り合いと名乗る人が、金銭トラブルを訴えて、騒動起こしたのだけど、最近お金を借りたり貸したり覚えある?」



(え…?金銭トラブル?)



レナはこの時 自分の銀行に入金されたお金については思いだせなかった。



「いえ。誰とも金銭トラブルはありません」



「そう?だけど、暴れた男性は君のフルネームを知っているんだよね。誰かと喧嘩したり、恨まれていたり心当たりない?」



(こ…………、恐い…。)



「どうして私の名前を」



「君、歌舞伎町に出入りしているよね?」



レナは急に冷や汗がでた



   「橘さん?」




―なんで歌舞伎町のこと知っているの?―





髭を生やした体格の良い男が、煙草をふかしながら、サングラス越しに店内を覗く。



(ったく、くそ寒ぃぜ。)



自然と眉間にシワが寄る



「うわぁぁあ、めっちゃ、こっち見てる!恐いよ~」



「あー。うっとおし!私行ってくる!」



「え!ちょッ!ちょっとやめなよ」



「お客様…………恐れ入りますが、どなたかお探しでしょうか?」



「んぁ?なんだ、お前」



―ぎゃ~!話しかけて後悔ッ!―



「あの…………、買い物なさらずに店内を覗くのは、控えて頂けないでしょうか?」



「あ?客に向かって、命令かよ。橘レナはまだ来ないのかよ。」



「橘さんのお知り合いですか?」



男は急に逆上し、側にある灰皿を蹴った。



   ガシャ―ン!!



「てめえ、橘のダチかよ?アイツに伝えろよ。借りた金は返せってよぉ」



パート社員は 恐怖のあまり唇が震えた。



「た…………、橘さん お金借りてるんですか?」



「あぁ、借りた金 返すの当たり前の義務だろうが。 あの女庇ってるみたいだけど、お前が身体で支払うのか?」



「ば…………、バカ言わないで下さい!私 あの子の友達でもないし、ただ迷惑なんですよ。貴方の行動が。店を荒らさないで下さい!」



「ギャハハ 面白ぇ。橘友達いないなんてさ!ギャハハ。店内美化かよ!笑わせるんじゃねーよ」



  「きゃあぁッ!」




「ちょっと!お客様やめてください! やめて!警察呼びますよ!やめてー」



 レナ出勤30分前の騒動



 男は店内の陳列を壊し
コンビニの前に止まった車に乗り込み逃げた。





レナが勤めるコンビニには、オーナーと店長は家族経営で、その他はパート社員ばかりだ。



オーナーの息子である店長は、とても温厚な性格で地域の方々からも、頼もしい店長だと噂されていた。



「おはようございます」



「あ!おはよー♪今日シフト一緒なんだぁ!」



「そうだよ、だけどさぁ。今日は橘さんも一緒でしょう?もう、いい加減やめてほしい。」



「え?それ言ったらマズイよ。確かに仕事手際わるいけどー」



「そうじゃなくて。」



    「え?」



「なんか、匂うんだよね。あの子 こないだも変な男が橘さん居るかって来てさぁ………。」



「あー…………、それ
他の人も言ってた。何なの?」



「スーツ着た恐い人が、煙草吸いながら店内見るのよ。で、あの子は居るかって聞くんだけど、いつも橘さん出勤する前にわざと来るから、気持ち悪くて。 歌舞伎町で遊んでるらしいよ………。」


「えぇ!!橘さんが?」


「うん。自宅の方向逆なのに、毎週3回は新宿方面向かうし。ヤバイ子なんじゃないかって、店長の奥さんも疑ってるみたいで、こないだ質問責めされたけど、ウチ仲良くないし。」



「歌舞伎町?!そういえば、あの子が店に入るの見たことある。それをオバチャンに話したら、そんな子じゃない。って言ってたから、私の勘違いかと思ったけど………。」



「マズイよ。あの子。なんか危ない人とつるんでるんじゃないの?」



「ねぇ 店長に言おうよ」


「ダメダメ。店長は優し過ぎるもん。奥様がいいと思う。」



「オバチャンは橘さんの味方だから、オバチャンには話したら駄目だよ。」


「分かった。あ………。また男が煙草吸ってる」






    いつか



こんな私でも人を愛するに、相応しい自分になれるのでしょうか?




  愛される喜びを
何の疑心もなく受けとめれる日が訪れるのでしょうか?




どんなに想い描いても、今のレナには手が届かない。





一回り以上 年上の大人に聞いてみた………。




「1つダケ、質問…。」




 「愛って何ですか?」




その大人は、すぐに答えたの………。






  「俺が知りたいよ」




 急に胸がざわついて、
この心に芽生える、希望に満ちた気持ちが、一瞬の泡となってレナの身体から消えた気がした………。




言葉をうまく跳ね返せるには、様々な経験が足りない………。




だからレナは黙ったんだ。




道行くカップルが眩しくて、羨ましくて………。




ただ、仮想でもいい。
幸せな心で満たされたかったの………。




大人になってから「愛」を諦めないで…………。




側にいる人を大切にしてあげて………。





1日に一度だけでも、大切な人に、目を合わせ笑顔を向けて欲しい。