ある大学病院の女性医師は、医局でコーヒーを飲みながら、カルテを見ていた………。



数多くの症例を専門として、見てきたが、ある患者の事だけは「病気」と捉えていいものか悩んでいた。



「あら?石崎先生、恐い顔してカルテ見て…、どうしたの?」



『あぁ、佐藤先生。なんだか、このクランケ変なのよ。ナニが変って、言葉では言い表せないんだけど、匂うのよね』



「またですか?石崎先生はご熱心ですね。で、今回はどんな疑問が?」



『酷い不安で夜も眠れないなんて言うから、サイレース(眠剤)とデパス(安定剤)処方したんだけど、飲んでないみたいなの。』



「飲んでないって、なんで分かるの?」



『出てこないのよ、アレが。で、今は認知行動療法に変えたんだけど…』



「何処まで聞き出せたのよ」



『うーん。証拠になるようなものは、まだハッキリしないけど。』



「事件性があるってことね?」



「どれどれ、カルテ見せてちょうだい。」



「○月○日→私は選ばれた人だと話す…、んー。パッと見は分裂症みたいだけど、違うのね?」



『アレをよこせと言われたけど、もう少しカウンセリングしてからって伝えたら、一瞬だけど鬼の形相を見せたのよね。』



  「おー!こわっ!」



『世の中、簡単に手に入るものほど、怖いものはないわよねぇ。』



「そうね。ま、もう少し様子見してから、報告すれば?確かな証拠がないと。」



『そうね。慎重に動くわ、しかし患者に「様」を付けるようになってから、妙な患者も増えたもんだわ。患者が医者を動かそうなんて、見抜かれるのがオチなのにね。』



―絶対アレは渡さない―