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Healing Voice Equinox_Nozomi

「場を整え、感性を育てる」それが私の使命。

Healing VoiceでBボディ、Mマインド、Sスピリット統合ワークの全てをここに♡

ラジオパーソナリティ、ラジオドラマ、語り、司会、MC、歌、、、様々な声のお仕事いたします。

 

   はじめに

 

 いつか、文章を書きたいと思っていました。

 

 手に取ってくださった

 

 あなたに

 

 何かが残れば

 

 何かが生まれたなら

 

  とても、

   

    嬉しく思います。

 

 

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プロローグ

 

   ●Wonderwall

 

 彼女に初めて会ったときのことは忘れられない。

 

 彼女はすごく変な格好をしていた。

 

 人ごみの真ん中で、バリとかインドとか、そういう国を連想するような派手な緑色にオレンジや青で模様が描かれたフレアロングスカート、黒地にオレンジと緑のグラデーションの蝶が刺繍されたノースリーブを着てブルーのカーディガンを肩からかけていた。それなのに、バッグはイタリア製のような青い革のビジネスバッグで、夏なのに毛皮のショールみたいな物が差し込まれていて、足元はパイソン地にゴールドのストラップが付いたハイヒールサンダルを履いている。ピアスもネックレスもアジアのどこかの国の人みたいだった。ノースリーブから伸びた腕も日焼けしていた。長く黒い髪はゆるいカールで一つにまとめられて、片方の手首にはジャラジャラとしたビーズやパールのブレスレット、もう片方の手首にはどこかのブランドのような白い腕時計。(ミスマッチすぎる!)そして、さらにはシャンパンゴールドの大きなキャリーバッグを引っ張っていて、それこそ、海外旅行に来たみたいだった。

 

 正直、最初に見た瞬間は外国人だと思った。

 

 彼女と目が合うと、彼女は驚いたように僕の目をじっと見つめて、僕の名前を呟いた。距離があったから聞こえなかったけど。

 

多分、そんな風に唇が動いたように感じた。それから彼女は、はっきりと僕の名前を呼んで、昔から知っている友人のように、とても親しげに手を振ったことが印象的だった。職業柄、こちらは知らなくても、向こうは知っている、という人に出会うことは珍しくない。でも、はっきりと初めて会う人だと思うのに、なぜか、その笑顔には懐かしさが込み上げてくるような感じがして同時に大きな違和感も感じながら、僕は無意識に手を挙げて彼女に近づいて行った。

 

 僕は、彼女に釘付けだった。

 

彼女の体、胸のあたりから、よくわからないけど、強大なオーラというか、エネルギーが溢れ出ていて、そのエネルギーが強烈にこっちに入り込んできて、包み込まれて全身が熱くなる。

そんな感じ。

決して、威圧的とかそんなではなくて、ふんわりと包み込まれて安心するような。すごく冷静なのに、テンションが上がっちゃうみたいな。

 彼女は僕に近づいて、満面の笑みで何かを話していた。

多分、僕の作品のファンだとかそういうことだったと思うけど、ちっとも頭に残っていない。彼女の言葉の意味合いよりも声の質感とか、音の響き方とか、視線の動かし方、首元の華奢なネックレスに書かれた文字、彼女が動くたびに伝わってくる懐かしさと、同時に広がる違和感。そんなことが僕を包み込んでいた。

 僕が何も反応できずにいたからか、彼女は言葉を止めて僕の目を覗き込んできた。不安そうに見つめる。

曖昧に、微笑み返したと思う。この先の展開をどうしたらいいのか、迷い始めるより先に、僕は彼女の手をとってこちらに引き寄せると、思い切り抱きしめていた。

 振り返ってみると、恐ろしいと思う。

初めて会った女の子を、たくさん人がいる中で突然、思いきり抱きしめていたんだから!

悲鳴をあげて訴えられなくて本当に良かった、と思う。いくら彼女が僕を知っていたとしても、仮に僕に好意を持っていてくれたとしたって、こんな非常識なことは普通はしないという、そういう常識はちゃんと持っているつもりだ。どんなに僕が突発的な人間でも、それは芸術の中だけのことだと自分では思っている。百歩譲ってありえたとして、恋人や夫がいるかもしれないのに、僕が有名なアイドルや俳優ならともかく…

彼女は二十代に見えたし、僕は四〇歳をとっくに過ぎていた。

だけど彼女は、そんなことにはそれほど驚かず、

 

 貴腐ワインの香りがする。

 

 耳元で、無邪気にそう言って片方の腕を僕の背中に添えた。そして、一旦僕から体を離すと、出逢いたかったね、と言って、今度は僕の首に腕を回して抱きしめ返してくれた。髪を撫でられて、何故だかとても心が締め付けられて、彼女を抱きしめる腕に力が入っちゃって。彼女はすごく華奢で折れてしまいそうなほど細かったけど、とても柔らかくて、暖かかった。それから、やっと出会えたんだ、と、今度こそはちゃんと見つめていようと、不思議な安心感と決意みたいな、そんな感覚があって力いっぱいに抱きしめずにはいられなかった。(ハイヒールの所為で身長がカサ増しされていて、のちに靴を脱いだ彼女がとても小さくて、さらに華奢だったことに、驚くことになる!)

 僕たちはそれから、近くにあったパブに入って、お酒を飲んで話をした。

彼女は仕事でこちらへ来ていて、翌日には地元へ戻ることになっている、と残念そうに言った。自然に溢れた、音楽と芸術の街。変な人たちがたくさんいるんだと楽しげに話してくれた。

なるほど。彼女の友人たちはみな機知に富んでいて、変わっている人が多いことを後に知ることとなる。だから僕がこの日も、そのあともずっと、変なことを言ったり、したりしても、少しも驚かないで受け入れてくれるのだ。彼女だって、すごく変わっているんだから!(いや、少しは驚いてるのかもしれない。)

 僕は彼女が住む町がとても気になって、一緒に彼女の町を訪れることにした。

そして、この日から、ずっと一緒にいることになった。彼女を育てたあの何もないのに、たくさんの美しいものたちで溢れている街もとても気に入った。ひと月ほど滞在した後で、僕は彼女を連れて僕が住む街へ帰るまで、彼女の街を散歩をしたり、買い物をしたり、彼女の友人に会ったりして過ごした。僕が住む街よりも繊細でダイナミックで、制限のない街。彼女はあの街で育って暮らしていた。そこで培った感性と温かいエネルギーは僕をそっくり包み込んで、そのまま今日までずっと、僕を護ってくれている。

 

 彼女は僕のWonderwallなのだ。

あ、そう!

 彼女は二十代なんかじゃなかった!

それは、それこそ、びっくりし過ぎて、僕は笑わずにはいられなかったけど。人ごみに佇んでいた彼女は二十代に見えたし、パブに入ってから向かい合って座っても、そう見えていたんだから。僕が一番メディアに取り上げられていた頃の話の途中で、彼女の年齢が分かるまではね。

 何れにしても、彼女が僕のWonderwallなのは紛れもない事実だ。とりわけ美人でもないし、しっかりもしていない。だけど一番、僕を知っていていつでもそばにいてくれる、可愛いくて面白い、目が離せないたった一人の女の子。(女の子って歳じゃないけどね)僕が滞在していた間にやってきた僕の友人も、あの街をとても気に入っていたし、何よりも彼女のことをすぐに気に入って、今では一緒に仕事をするようになっている。

 

 それと…

 

 これは今だから確信していることだけれど、僕と彼女は遠い遠いむかし、冬になると白い雪が降り積もる町で一緒に過ごしていた。あの時は二人にとって、とても不幸なことがあって、ずっと一緒にいることはできなかったけれど。

 今、こうしてようやく一緒に過ごすことができている。と、僕は感じているのだ。彼女もそのことをきっと、知っていると思う。時々、僕の目を覗き込んで、懐かしがっているような気がするのだ。

 と、ごちゃごちゃと思いつくままに綴ってしまった。

しかし、僕が彼女について、何かを話すのはきっと、これが最初で最後です。

どうか残念がらないでほしい。

 

  再び彼女の愛を得られたことに感謝をして。      

 

                               2016年 異国のホテルより 

 

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解説

 

プロローグは、わざと読みにくくなっています。

 

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