ライアンの本能



 



 夢を見ていた。



 生まれたその瞬間から奴隷として育ったので、女体というものは知らない。



 だが同じ牢の中には色々な人がいてそれがいかに素晴らしい、気持ちのいいことかはいやというほど聞かされていた。



 実際に目にしたことは無いが、指で地面に絵を描いて詳しく説明する者もいて、頭の中ではだいたいのところイメージはある。



 だが、どうしてもどう素晴らしいか、どのように気持ちがいいかは理解できない。



 「あんないいことを知らないなんて可哀想」口に出すかどうかは別として、回りにいる者たちはいつもそういう目でみていた。



 もちろん奴隷の身では絶対にかなわないことであるからこそ、その素晴らしさはなおさら誇張され話された。



 



 目をさまして思ったのはやはりそのことであった。



 奴隷であっては絶対に実現できなかったこと。そのことがまるで開放のしるしと思えた。



 心が1度本能に向いてしまうと、自制が効かない。



 そうして見ると、脱走はまるでそのためであったように思える。



 だとすれば、自分は本当の意味での自由では無いのではないか。



 「してみたい。」



 なんとしてもすぐにでもしたい。



 その素晴らしさを味わい本当の自由を満喫したい。



 頭の中は1色・・・・・



 しかし当然のことながら、ここは砂漠のど真ん中のオアシス。相手が見つかるはずも無い。



 「でも どうしても・・・・。」



 



 突然閃いた。「そうか 人はいないが・・・・」目の先にはこちらに尾を向けて駱駝が枯れた草を食べていた。



 どうやら「メス」のようだ。



 もうなんでもよい。とりあえず後ろから駱駝に襲い掛かった。



 しかし 駱駝も突然ことに驚いて暴れだした。



 ライアンは屈強な体格であったが、駱駝には及ばない。



 何度も飛びついては弾き飛ばされ、あげくの果てには後ろ足でけりとばされ、草むらに倒れてしまった。



 疲れて草の上にしゃがみこんだ。いらいら感がつのる。



 まったくいまいましいやつだ。



 欲求はますます高まるがこう暴れられたのでは、どうしても事をとげることはできなそうだ。



 なんとかこいつに暴れさせなくする方法はないだろうか。



 しかし名案は一向に浮かばない。



 



 その時、ふと近くの草むらに人が倒れているのに気がついた。



 



リサーラの天国と地獄



 



 肩を揺らされ、目を開けると、そこには見た事もない男の顔があった。



 助かった!



 



 「お願い・・です・・・お水を・・・ください。」



 声を振り絞る。しかし返事はなかった。



 今度はもうすこし、はっきりとした声で・・・



 「どんなことでもあなたの言う事を聞きます。だからお水をください。」



 どことなく上の空に見えた男は何も言わず、しかし水の入った水筒を差し出してくれた。



 あわてて蓋を外し、一気に水を喉に流し込む。



 「天にも昇る気持ち」では当たり前すぎるかもしれない。



 ほとんど死を覚悟していたのだから「生き返ったよう」と言うべきか。



 しかも、男はわずかではあるがパンも差し出した。



 礼を言うこともなく、思わず頬張る。



 



 さて、ようやく落ち着き、「地獄に仏」と思った男を改めて見ると、とても恐ろしい気持ちがした。



 体は岩のように大きく、髪やひげもぼさぼさでまるで手入れがされていない。



 薄汚れた肌は茶色く汗でヌメヌメしていた。



 身なりもぼろでとても粗末なものだった。



 ところどころにある破け口からは剛毛がむき出して、いっそう卑しさを醸し出す。



 なによりも恐ろしかったのはそのギラギラとした目である。



 食物も水も持っているこの男が次にほしがるものは自分ではないかと思えたのである。



 もとより、今はこんな砂漠のど真ん中のオアシスでこの男と2人きりなのだ。



 何が起きるかは明らかだ。



 大声を出したからと言って誰かが助けにきてくれるとは思えない。



 しかも状況が状況とは言いながら、自分は、水欲しさに「どんなことでもあなたの言う事を聞きます。」と言ってしまった。



 後悔してもしきれない。



 



 その時、一言も口をきかなかった男がようやく口を開く。



 



エンディング・・・というかオチ



 



 「さっきおまえは 'どんなことでもあなたの言う事を聞きます。'と言ったな。」



 



 もう終わりだ。こんなことだったら、あのまま死んでしまったほうがよかった。



 



 「はい。」力無く応える。



 



 「それじゃあ・・・・・頼みをきいてもらおうか」



 



 ライアンの醜い口元が歪み、卑しい笑みがこぼれた。



 



 リサーラはなおさら恐くなり、目をつぶって手を合わせた。



 次にこの男の口から発せられるおぞましい頼みを黙って待つ。



 自分には、どうすることもできない。祈る事以外には・・・・



 



 そして、ライアンの口元が動く



 



「駱駝が暴れないように押さえていてくれないか。」

           <THE END>

お粗末様でした。m(__)m