〈動画説明〉

ポッドキャスト「荻上チキ・Session-22」2015年01月20日(火)

今夜は、音楽ライターの 岡村詩野さんが登場! "インディー・レーベルやレコード・ショップがファンと一体となって招聘&­quot; 「洋楽来日公演事情!」と題して、春までの来日公演特集をお送りしました

■テーマ イスラム国とみられる組織が、日本人の人質2人の殺害を警告。 この事件をどう考えればいいのか?

■スタジオ出演 東京新聞・特報部デスクの 田原 牧さん 自身もイラクで武装勢力に拘束された経験を持つ、フリージャーナリストの 安田 純平さん ■電話出演 放送大学教授の 高橋和夫さん 同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科教授の 内藤 正典さん

画像は下記のサイトより引用しています。
http://www.tbsradio.jp/ss954/index.xml



前記事に引き続き、今回も『イスラム国日本人人質事件』を取り上げて参ります。


今回の主な争点は、安倍首相に欠けていた「本当の意味でのグローバル精神」や「国際的地政学」への未熟さが浮き彫りとなり、最大のポイントは彼が今後推し進めていく『集団的自衛権』に関する「行使容認」の結果です。

それ自体、昨日イスラエルでの記者会見で安倍氏が謳った「寛容」および「中庸の精神」とはかけ離れた行動そのものであり、日本が真に平和でいてこられた「憲法9条」を頭から蔑ろにして「近隣諸国との問題」ばかりに目が行った結果、自身の近視眼的で時代遅れな認識が今回のような「イスラム国」という未知なる相手を敵に回し、世界ではとっくに軍事力で国際紛争は解決できないのが常識となっているにも関わらず、日本の右傾化に合わせてたいへん視野の狭い閉鎖思考で物事を判断したが故に、拘束された日本人二人の『殺害予告』という最悪のケースにまで発展してしまいました。


そしてなにより、首相にも私たち民衆の側にも『集団的自衛権』行使によって降りかかる恐ろしい事象への「覚悟」がまったく出来ていなかったことだろうと思います。

「国」対「国」の戦争は時代精神の変化によりとうに廃れ、「国ではない」相手との戦いに『勝利』も『降伏』もない。それが半永久的に続くという恐怖の現実に国民がどれだけ理解していたのか疑問ですし、私自身も今回の動画を拝見して改めて思い知らされました。


ゆえに「今まで通りに」アメリカという宗主国と一体化していれば安全ではない、むしろそれにより数々の戦争に巻き込まれ最終的には自国社会の破滅にまで向かうようなカタストロフに、今日(こんにち)のイスラム国人質事件を重ね合わせて私たちは想像しなければなりません。かつて外務省にも中東に理解を示しその関係を大事にするアラビックな陣営もいたのですが、それも今や反主流とされ、アメリカ傀儡の事大主義者しかいないことはとても危険な状況です。

ましてや、全体として現政権はそれを保ち強化することを「最大の国是」としているわけですから、総体的流れとしてはどんどんアメリカと運命を共にする方向へ行っております。


しかし今回ばかりは安倍首相も事態を把握しきれなかった訳で、人質解放の交渉国先が「ヨルダン」という、これは専門家からすれば地政学の知識がまったくないお粗末な選択であり、地域のキーパーソンでもない国と連絡を取り合っても何ら現状は改善せず、本来ならば「トルコ」というイスラム国と唯一水面下でパイプがある国と交渉を取り決めなくてはいけないのです。

どうやら安倍氏も行動がしどろもどろとなり、一体自分が何を考えて行動すれば良いのかわからなくなっているのではないかと思います。


いや、そもそも彼が中東歴訪をする際から判断を間違っていました。

イスラム国は湯川氏拘束後からそれを注意深く見ていて、日本人もあまりみないNHKのマイナーなニュースチャンネルを欠かさずチェックして、今回のエジプト・カイロでの演説を聞いた瞬間に『人質交渉』のカードを切ったわけですから、本当にしたたかというか、外交の駆け引きが実際の国よりも遥かに上回っていて、単純に日本の外交がものすごく未熟で稚拙であるのも重なって、その「衝撃度」は計り知れないものとなっています。


結果的に、安倍氏がかねて目論んでいた中東歴訪での「人道支援」を手始めにした本格的な『集団的自衛権』行使の足慣らしそのものが、完全にイスラム国側に見透かされていて、昨年から急激にイスラエルとも接近していた事実も照らし合わせて、イスラム国側からすれば、アメリカと結託し、実際にガザで大量虐殺を行う不倶戴天の敵であるイスラエルと仲良くする日本を「反イスラムの十字軍陣営」として見なすのは自然な見方であり、その極めつけが、カイロでのイスラエルのネタニヤフ首相と共に発表した今月19日の「ISIL(イスラム国)に対抗した人道支援」演説ですので、もう隠しようのないほどの「対イスラム国陣営」の一員としての存在としての、日本の異常なまでのキャラ立ちが全ての悪夢の引き金となりました。


そういう自分のひとつひとつの行動が国際社会でどんな影響を及ぼすのか、まったくもって考えもせず(そもそも考える力がなかったのか)、口では美辞麗句を並べて金銭の飴玉を各地にばら撒いて、それが日本で暮らす全ての民衆から徴収した血税であることを無視して、八方美人を気取った末路が今回の人質事件であることを全てが物語っております。

また前回の記事タイトルで『賽(さい)は投げられてしまった』と表しましたが、現在のような事態まで発展してしまった以上、後に戻るのは不可能であり、安倍氏に残された選択は以下の二つです。


一つ目は身代金を払わずに解放交渉に臨むか、しかしそれは確実に「邦人の殺害」が現実のものとなりますので、そうなったら首相は日本国内で針のむしろとなるでしょう。無論党もタダではすまないはずで、今後の政権運営にも大きく響いてきます。


二つ目は人命救助を最優先してイスラム国側に身代金を払うことが挙げられますが、「反テロ陣営である」アメリカを筆頭とする西側西欧諸国からの反発を買い、日本は孤立するでしょう。

それは今の安倍政権からすれば「絶対に許容できないこと」であり、ここでヘタレれば「じゃあなぜ日本は対テロ(イスラム国)を名目とした支援金を出すと宣言したのか」「そもそも日本はどっちの味方なのか」と責められ、安倍氏としてはどちらに転んでも手痛いダメージを受けることは必至で、国際的知識に欠落した無思考外交を全開にしたことにより、このような袋小路(ふくろこうじ)に自ら迷い込んでしまったのです。



(‐追記‐)



〈動画説明〉

ポッドキャスト「荻上チキ・Session-22」2015年01月22日(木)

今夜は、戦場カメラマンの 渡部陽一さんが登場! 今夜は、イスラム国についての見解や、 「トルコやシリア国境の取材で見えてきた、4つのこと」について伺いました。

画像は下記のサイトより引用しています。
http://www.tbsradio.jp/ss954/index.xml


安倍氏の国際認識や外交戦略の稚拙さを表す理由として、現地の情報を事細かに解説して下さった戦場カメラマンの渡辺氏のお話も合わせて、今月17日にエジプトのカイロにて安倍首相はイスラエルのネタニヤフ首相と共にイスラム国と戦う中東の国々に向けて、3000億円あまりの支援を行う演説をしました。そして動画(20分以後)にもある通り、そのお金を渡した相手がエジプトのシーシ大統領であったこと、それは2011年に起きた『アラブの春』にて、混乱した社会情勢の中で彼が最も迫害した相手が、イスラム教の教えを最も大切としようとする「ムスリム同胞団」でした。シーシ氏は軍部出身であり、強権的な統治でムスリム同胞団を叩き潰し、そんな人物であることを知らずに安倍氏はのんきに握手をし大金を渡したわけであります。


つまりこれは何を意味するのか。

片やアラブ諸国と徹底的に対立してその殲滅も厭わないイスラエルと連携し、ムスリムの和合を訴える人々を抑圧するシーシ大統領を支援した。イスラム国側からすれば、完全なる「敵対宣言」であることにふさわしく、日本が『十字軍』に参加したと称されても不思議はありません。

反対論としてイスラム国は無意味に周りを敵を作りがちだとか、日本への『十字軍』認定はすでにイラク戦争時から始まっていたとかしますが、これは間違いであり、理不尽で残虐な手法が主なイスラム国にも、上述のちゃんとした論理があるのです。

結果その「報復措置」として、安倍氏が提示した金額そのものを「お返し」する形で身代金提示がなされたのです。ゆえにどこかの自称専門家が言うように、単純に「法外な金額を出してそもそも身代金を取るつもりはなかった」と決めるのではなく、ある意味全体としてのイスラム側の立場や心情を正しく理解して、徹底的にそのバックボーンを掘り下げていかなければ、決して整合性のいく答えは出ないのです。