日中関係めぐる「英独」発言


首相「全然問題ない」


安倍晋三首相は26日、第1次世界大戦前の英独関係を持ち出して日中関係を説明した発言が海外で波紋を広げたことについて「発言の真意は、同席していた(メディア幹部の)方に聞いていただければ全然、何の問題もなかったことがわかっていただける」と述べた。


訪問先のインド・ニューデリーで記者団に答えた。
首相は22日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)出席のため訪れたスイスで主要メディア幹部らと懇談し、現在の日中関係について当時の英独関係を引き合いに出して説明していた。


首相は記者団に、25日行ったインドのシン首相との首脳会談で北東アジア情勢について意見交換下際、「中国には『コミュニケーション・チャンネル』(通信経路)を聞きたい」と申し出している。日本の対話のドアは常に開いている」と伝えたことも明らかにした。


一方、ダボス会議の共同議長の1人で、中国工商銀行会長の姜建清氏は25日、安倍首相の英独発言について「武力衝突が起こるかどうかはすべて日本にかかっている」と指摘。姜氏は、「第1次世界大戦が開戦した1914年に至るまでに日本は中国を侵略し、大戦後はさらに中国の領土を奪った。第2次世界大戦では、日本はアジアのナチスだった」とも述べた。(ニューデリー=蔵前勝久、ダボス=前川浩之)

             

                           朝日新聞2014年(平成26年)1月27日 月曜日 第3面(13版)



この一件と並立して、一昨日のNHK会長就任会見にて籾井勝人氏が、慰安婦問題について「戦争をしているどこの国にもあった」「強制連行を種にお金よこせ、補償しろと言っている」などと発言して物議をかもし、与野党からも批判が起こって、早々に辞任論も浮上しております。


話は安倍氏にもどりますが、首相のダボスでの発言については、英米の教授や世界の要人から非難をうけております。それもそのはずで、彼の発言で「イギリスもドイツも、経済的な依存度は高かった。最大の貿易相手国だったが、戦争は起こった。」と自身の勝手な認識論で物事を語り、世界に恥をさらしました。


第一次世界大戦といのは、帝国主義的グローバリズムの最終的な表出現象であり、主に産業革命がもたらした第2期のグローバリゼーションでもありました。その前の第1期のグローバリゼーションは、大航海時代(欧州系船舶大寄港時代)におけるアフリカ・ユーラシア、南北アメリカ大陸まで含む世界貿易の確立でした。


18世紀後半(1760年代)から、イギリスで始まった「産業革命」により、生産力の飛躍的拡大は、一方において産に投入する資源の大量獲得を意味し、他方において、生み出された膨大な生産物の販路として巨大市場を不可欠なものとしました。そして、産業技術で富を創出する先進地域と、原料などの資源の獲得される後発地域とで別れ、さらには、それらの生産物の市場を結ぶ交通通信ネットワークの構築が、当時の先端技術である鉄道や汽船の建造、郵便制度や電信ネットワークの整備によって確立されて、それまでの「点と線」のネットワーク構築競争から、「面的」な領域支配へと変貌し、これが第2期のグローバリズムの最大の特徴でした。つまりそれは俗に言う「帝国主義」であり、「独占資本の拡大膨張」でありました。


こうした列強による、植民地獲得競争による世界分割が、経済・軍事的収奪システムの構築をうながし、世界の貿易は、植民地と本国の間の貿易、列強各国間の貿易と2種類とありました。このような世界的角逐が、やがてブロック経済を生み出し、国際貿易の相互依存性というものは、現在のようなアウトソーシング(海外への外注化)が進んだ、第3期グローバリム(トランスナショナル化=国境を越えた一国の利害にとらわれない)とは、およそ比べることが間違っております。 安倍氏の誤謬は、まさにそこでしょう。


2008年のノーベル経済学受賞者であるP・クルーグマン博士は、現在のグローバリズムが、それまでの古典貿易理論では推し量れない現実に対して、経済地理学・空間経済学的立場から、ブロック経済は「互いに異なるもの同士」によって行われるのが最大のベストだという説明でありましたが、今現在の国際貿易の過半は、「似たもの同士の先進国間」で行われているとし、むしろ、先進国間の貿易は拡大こそするが、縮小する傾向はないとしました。 これは、製品における部品などの中間材、最終製品に至る以前の半製品が拡大しているとし、これ自体は、以前の貿易論では想定してなかったことでした。


クルーグマン博士は、現在の国際貿易パターンの背後に、「国際分業の拡大深化」があるとし、国境を越えた大量生産と規模の経済性の追求、それによる、海外で生産拠点を直接的に構築する「直接投資の拡大」需要の「世界化」を表出しました。対する古典経済・貿易論などは、国の独占資本による会社が、国内(植民地含む)影響下で、各国それぞれが自社内で内在化された技術や設備を駆使して、世界との角逐にそなえていかに自国の資本を増やして軍備の増強をはかり、さらなる領土拡大を目指して、むしろ戦争を欲しておりました。日本が朝鮮を植民地化したときも、朝鮮に近代化をもたらしたのは嘘で、逆に日本の独占資本の隷属化、資材・食料供給地として富を収奪し、民衆の生活を破壊しました。その代表が、日本の米騒動による食糧難打開による「産米増殖計画」や各種政策の実行でした。


うって変わって、現在のグローバル経済や貿易を見てみると、今の製品があまりにも高度化・多部品化・多情報化が進んで、機械工業を代表し、何万という部品を階層的に組み立てることによって最終製品を製造することができます。そうした事例は珍しくなく、自動車の製造がまさにその一例でしょう。


そして各企業間は、国家や国境の影響を脱し、よりコストを抑えるべく、適格で低い中間材納入業者を世界中から選択し、随意契約によって、その系列を維持しながら経営を行っております。現代の製造業は、どんな大企業であれ、中心となる部品を除き、かつての自社でそなえる技術や設備をなるべく減らし、維持費の削減を行って、社外から優秀な業者に発注することにより、価格競争による販売競争を行っております。

これを正確にいうと、社外の別の業者からたのんで、部品を調達する「製品部品の外注化(アウト・ソーシング)」と定義されます。


最終的に、こうした広い中間材供給システム自体を、「サプライ・チェーン」とも言い、この制度はどんどんと拡大していくでしょう。


上述のシステムにより、異業種間の連携は緊密になり、世界各国の経済依存度は、爆発的に増し、ひとつの企業や国家が覇者になることは絶対にありえません。そもそもが、無限に拡大する部品や情報(ビックデータ)を維持管理するにはあまりにも無謀で、国家や企業が少しでも生き残りたければ、相互に協調しながら、共に助け合い、繁栄を享受すべきでしょう。


こうした事実が、頭から抜けている安倍氏が考えることは、あまりにも陳腐かつ時代錯誤であり、史実の限界性を無視したたいへん愚かしい行為です。おそらく彼は、自身の野望のために、何ふり構わず発言を繰り返しているようですが、それをすればするほど、己の無知をさらけ出し、世界から嘲笑の的となるでしょう。

私たちは、そんな彼を首相に当選させ、なおかつ今でも支持者が多いことから、世界の通念や認識論において大きく落伍していると見られても仕方がなく、たしかな知識がないために、目先の利益や感情的な国家論に左右されている感が否めません。



〈参考資料〉

・朝日新聞 2014年1月27日記事

・大学資料