ナチス・ヒトラー映画好調、今後も続々公開

 
 ナチスに関連した映画が好調だ。8月12日に公開された、ナチス高官ハイドリヒの暗殺に挑んだメンバーを描く『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』は、メイン館の新宿武蔵野館で初週の35回上映中33回が満席の大ヒット。同館のリニューアル後の動員記録を更新した。8月11日公開の『少女ファニーと運命の旅』は、ナチスから逃れ勇気の旅を続けたユダヤ人の少女を描くもので、メイン館のTOHOシネマズシャンテでは2週目土日の興収が初週比90%以上を維持。その後も堅調に推移し、5館スタートながら、8月27日までに全国興収2千万円を超えた(26日から11館)。7月8日に公開された、ペンと葉書だけでヒトラー政権に対抗した夫婦を描く『ヒトラーへの285枚の葉書』も健闘しており、9月からは地方で多くの劇場で公開が控えている。

 ヒトラーやナチスを題材にした映画は途切れなく作られ続けているが、近年は特に本数の多さが目立っている。別表の通り、今年は少なくとも16本以上が日本で公開される見込みだ。『ハイドリヒを撃て!』のように、ストーリーの主軸にナチスがあるものもあれば、ホロコーストをテーマにしつつも、主軸は現代のラブストーリーという『ブルーム・オブ・イエスタディ』のような作品もあり、ジャンルは様々だ。

 ヒトラーやナチス映画を上映したことのある配給・興行会社数社の社員からヒヤリングしたところ、共通したのは「ヒトラー映画の成績は堅い」という意見だ。好スタートを切った前記3作品のほか、昨年はブラックコメディの『帰ってきたヒトラー』が興収2億5千万円を突破する大ヒットになったのが記憶に新しいところ。強制収容所の死体処理係の男が主人公の『サウルの息子』もカンヌ国際映画祭グランプリ受賞などを追い風にスマッシュヒットとなった。そのほか、小さな規模の公開作品でも、手堅く3千万円以上の興収をあげているものが目立つ。

 今後ヒトラー映画が控えるある宣伝マンは、「歴史に関心のある男性シニアを中心に “ヒトラー映画は確認せずにはいられない” という人が一定層いる」と、手堅い成績が多い理由を分析する。別会社の劇場営業マンは「ヒトラー映画は腰が強いし、地方も入る」と、都心の映画ファンに留まらない人気の広さを語る。今夏に公開作品のあった会社の宣伝マンは「ヒトラー映画は、史実があって、なおかつキッチリとエンターテイメントや人間ドラマにできている面白い作品が多い。劇場公開だけでなく、ビデオもよく回る」という。また同氏は、「邦題に “ヒトラー” やナチス関連のワードを混ぜることは必須。さらにポスタービジュアルにハーケンクロイツ(ナチスのシンボルマーク)を入れるなど、ヒトラー映画にはいくつかの方程式があり、宣伝プランも立てやすい。中身がしっかりしている作品なら計算がしやすく、買付時にはだいたい競争になる」と、日本の配給会社からの同ジャンルへの信頼の厚さを語る。

 一方、数多くのヒトラー映画を手掛ける配給会社の劇場営業マンは、「ヒトラーだけのフックでは伸び悩む。もう一つ接点がないとダメ」と指摘する。一定層のファンがいると話す前出の宣伝マンも「ヒトラー映画の客層は決まっており、それ以外の層にどう訴求するか」と課題を挙げる。同ジャンルでヒットした映画に多いのは、公開当初の客層はシニア男性が中心で、しばらくして女性や若い層に広がっていくパターンだ。『ハイドリヒを撃て!』は史実だけでなくアクション要素や俳優人気もあり、2週目で一気に5~10歳ほど客層が若くなったという。『ヒトラーへの285枚の葉書』は夫婦愛の要素も強く女性客も多い。ヒトラー映画の動員を支える男性シニア客を土台に、別の切り口で他のどの層にアピールするかが、興収の伸びを左右すると言えそうだ。

 秋から来年にかけても、続々と作品が公開される。75年に製作されたロベール・アンリコ監督の名作をデジタルリマスター化した『追想』、前記の『ブルーム・オブ・イエスタディ』、ジャズを武器にナチスに立ち向かった伝説的ギタリストを描く『永遠のジャンゴ』、ホロコーストを巡る歴史的裁判の行方を描く『否定と肯定』、ナチスの侵攻に抵抗したノルウェー国王の伝記映画『ヒトラーに屈しなかった国王』、迫害されていたユダヤ人を動物園の檻にかくまって300人を救った実話の映画化『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』、ナチスが月から攻めてくるブラックコメディ第2弾『アイアン・スカイ ザ・カミング・レース(原題)』など、実話から大胆なフィクションまで、その切り口は多岐に亘っている。