そいつはいつからか部屋の片隅に立ち続けるようになっていた。
おかめ提灯のような真っ白い顔に、貧相な体つき、長い手足で無表情、女か男かもわからない長い髪に顔のほとんどは隠れてしまっている。
何を言うわけでもなく、ただそこにいるのだ。
最初は不気味でびっくりしたが、慣れてしまうと慣れてしまうものらしい。
さすがに気味が悪いので、掃除するときは近寄れないし、その付近は完全なデッドスペースになってしまっているが、元々部屋もそれほど綺麗に片付いているほうでもないので、まぁ気にならないと言えば気にならない。気味は悪いが。

そんなこんなでそいつとの奇妙な同居が始まって1ヶ月、ある日そいつはニタァっと笑った。
「うひぃ」
情けない声を上げてしまった。
正直に話そう、驚きのあまり腰を抜かして転んだ。
だって、そうだろう。こんな不気味なやつ、どう考えたって慣れるわけないじゃないか!!
内心ビクビクしながら1ヶ月暮らしてきたに決まってるじゃないか!!
俺がビクビクしていると、そいつは更に声を出した。
「¢%§*&%¢£#」
うひぃ、呪いの言葉か!俺はここで死ぬのか!
「モ・・・・・ダロ」
モ、モヘンジョダロ?
あの世界遺産であり、インダス文明最大級の遺跡、モヘンジョダロ?
とてもへんぴな土地にあるから行くだけでも半日かかるというモヘンジョダロ?
死の丘?
死・・・まさか、こいつ俺を殺す気か?!

「モ・・・イダロ」
そいつは更にしゃべり続けた。
どうやらモヘンジョダロではなかったらしい。俺の早とちりだった。
昔から俺は早とちりしがちな性格なのだ。
小学生のときも数の合わない給食費を友人が盗んだと決めつけて断言し、泣かせてしまった。
俺が自分の分を入れ忘れてただけなのに。
それはどうでもいい。
いや、まさかあの時の友人がその後何らかの事情で自殺して、あの時の恨みから俺に取り憑いているのか?!
そういえばあいつこんな顔だったっけなーやべーなつかしー、などと考えていると、そいつはまたしゃべった。
「モウイ・・だろ」
うん、確かに猛威だ。はっきり言って俺の人生最大の猛威と言えよう。脅威か?
明らかにオバケ、しかもQちゃんみたいな可愛いオバケじゃなく、気味の悪いオバケに話しかけられている。
どう考えても猛威だ。うん。
つーかコイツまじできもちわりーよたすけてーお巡りさーん、とこんな時だけ公権力に助けを求めてみるもそこにお巡りさんが来るはずもない。
「もういいだろ」
やっと聞き取れた。
でも、どういうこと?わからない。
なんか怖いのに少し慣れてきて、そいつの顔を少し覗き込むことにしてみた。
ニタァっと笑いっぱなしの口元から、髪で隠れた顔を覗き込んでみると、そいつは俺だった。
ドッペルゲンガー?俺近いうちに死ぬの?
とか考えてると、もう一つ気づく。
そいつ(俺)の首には紐が繋がれていて、天井に繋がっている。
ああ、そうだ。
俺は1ヶ月前にこの部屋で首吊ったんだっけ。
ってことは、オバケのQ太郎はこいつじゃなくて、俺のほうだったのね。
っていうか1ヶ月も誰に気付かれないってなに?孤独死?辛っ!お巡りさんつかえねー。
とか考えてるうちに俺は天に召されてしまった。
ニタァ
やあ、君がこれを読んでいる頃、僕はもういないかもしれない。
急なことでごめん。
夏場あんなにいた蝉が肌寒くなると、いつの間にか急にいなくなるように、そんな風になってしまったことを少なからず後悔しているよ。

ところで君は蝉の死因を知っているかい?
寿命、と思うだろう?
確かに寿命で死んでいくものも多い。
例えばトンボはヤゴから成虫になると、口が退化することで摂食できなくなり、やがて死んでいくんだ。
では、蝉はどうだろう。
実はある種の蛾の幼虫に寄生され、すると行動が制限されてしまうんだ。
それは摂食であったり、求愛であったりね。
そして、そのまま蝉は死んでいく。
あんなにうるさかった蝉なのに少し意外だよな。
もしかしたら寄生虫に操られる「痛み」で泣き叫んでいたのかもしれないな。

話が脱線したな。
君は割としっかり者だから、これからも上手くやっていくだろう。
そして彼女もいる。

僕がこんなことを思い立ったのは、そもそも何故だったかな。

君たちが眩しく、正直言うと多少の嫉妬心もあったかもしれない。

とにかく僕は君たちから離れようと思ったんだ。

君はよく言ったよね「おいおい、お前もそろそろ彼女くらい作れよ。なんなら俺が紹介してやろうか?」なんて風に。

きっと君は気を使ってくれていたんだろうし、それが本心から出てくる純粋な思いやりの気持ちだってことはわかっていたよ。

でも、それがどれだけ僕の心を傷つけていたか、君には最後までわからなかったと思う。

この手紙を書いたのもそのためなんだ。

正直に言おう、僕は君の彼女のことが好きだったんだ。ベタだろ?

でもベタかどうかなんて関係ない、とにかく僕は君の彼女のことが好きで、君は彼女と付き合っていた。

彼女との出会いは思い出すことも出来ないくらい昔、幼馴染だってことは話したっけ?

あの頃からずっと僕は彼女のことが好きだった。

僕は彼女と同じ大学に入り、君と出会い、すぐ友人になり、僕ら3人はあの頃親友という形で青春を謳歌したね。

そして卒業し、仕事に就くと君はすぐに彼女と付き合い始めた。

いま考えると僕が鈍感だっただけで、君は大学時代から彼女と付き合っていたのかもしれないな。

そして僕は淡い――――というには長すぎるけど-――――初恋を終わらせた。

君たち二人を純粋に応援していたこともあった。それは信じて欲しい。



さて、ここからが本題だ。

僕はある日蝉の死因の話を聞き、とあることに気づいてしまった。

つまり君が僕に寄生して、彼女を手に入れたんじゃないかということを。

そもそも、君は彼女を手に入れるために僕と友人になったんじゃないかということを。

少し考えてみてほしい、例えば君と大学で出会わなければ、僕はきっと彼女と幼馴染という縁もあって、仲良くし、そのまま自然に付き合っていただろう。

君と出会ってから、僕が彼女とどこかへ遊びに行こうとすると、決まってどこからか現れいつの間にか仲間に入っていたね。

まるで蝉の寄生虫のように僕の求愛行動を抑えていたんだ。

ここまで書くと自分でも被害妄想なんじゃないかと思えてくることもあるが、実際に君はその結果彼女を手に入れることに成功している。

君はとてもうまくやってのけたと思うよ。本当に感心するくらいだ。



でも、そこからがまずかった。

つまり君は僕の彼女に対する想いの強さの読みが甘かったんだな。

それからの僕は、君と彼女を陥れるためだけに生きたと言っても言い過ぎじゃない。

もちろんバレないようにあの手この手を使って君たちの仲を引き裂こうとしたよ、まるで蝉の寄生虫のようにね。

でも君は気づかずに僕にやさしく「お前もそろそろ彼女を作ればいいじゃないか」なんて言っていたね。

今思えばあれは君の罪悪感から来る言葉だったんだろうか?

ただ、僕はこれを言われるたびにじわじわ、じわじわと、まるで枯れかけた井戸の底のように憎しみが湧きだしていったんだ。

そこで僕はこう考えた。

君たち二人を居なくしてしまおう、と。

何故彼女も含まれていたのかは自分でもよくわからない。

きっと、君の女になった彼女は僕の愛した彼女とは別人に思えたからだろう。



とにかくそうと決めてからの僕の行動は早かったと思う。

君たち二人を大学時代のように3人でキャンプにでも行こう、と軽く誘って、別荘の地下に閉じ込め、この手紙を書いているってわけだ。

本当に急ですまない。

でも僕からしたら全てがとても長く長く合理的な結末だったんだよ。

さて、僕はこれからこの手紙を地下の君たちの部屋に入れ、この家に火をつけようと思う。

最後にまた蝉の話ですまないが、蝉についた寄生虫は蝉が死んだ後どうなると思う?

実は大半が蛾になることは出来ずに、そのまま蝉と共に死んでしまうんだ。

ふしぎだろう?

そして僕も、そうすることにした。

もし、また出会うことがあるのなら、昔のように3人で気楽に遊ぼう。
ガタンゴトンガタンゴトン・・・・



九月、私は旅行を兼ねてある片田舎の電車に乗っていた。



─あ、ここいいですか?



私が周りの景色を眺めていると紳士風の男が相席を申し出てきた。

別に断る理由もないので私は「どうぞ」と許可した。



─ありがとうございます。

─いやぁ、暑いですねぇ。



男はこんな事を話しかけてきた。

電車の中はクーラーが効いている。

だから暑くはない。

しかしこれは社交辞令というものだろう。

「暑いですねぇ」わたしもそう返した。

普通ならこれで終わりだ。

しかし、この男は違った。



─でもね、もうすぐ涼しくなりますよ。



私は急に自信満々でこんなことを言いわれ、意表をつかれてしまった。

そして気づいた時には「え?」と聞き返してしまっていた。



─いえいえ、たいした事じゃないんです。



と男は言う。

さっぱりわからない。

「どういう事ですか?」

と聞くと。



─私がこの電車の終点で降りれば秋が来ますよ。



私はまたもや意表をつかれてしまった。

「ハハハ、それは風流ですねぇ」

とわけのわからない返事をしてしまった。



─ははは。



私は話を合わせてみることにした。

「はは、あなたは魔術師とか占い師をやってるんですか?」



─いえ、私に予知能力なんて大それたものはありませんよ。



「そうです。」と言うと思っていた私はまたもや意表をつかれた感じがした。

「あなたは何者なんですか?」私はそう聞いてみた。

いや、そう聞くしかなかった。



─わたしは─



キキーーーーーーーーー



そこで私の降りる駅についてしまった。

私は冗談半分で聞いていたので、別にそこに留まって聞こうとはしなかった。

「あ、私はここでおります。楽しく話していたのであっという間でしたね。」

と言い。



─そうですね。ではお気をつけて。



と男が言ってきた。

私は降りる間際にこう言った。

「秋・・・・・来るといいですね。」

すると男はうれしそうに



─はい。



と微笑みながら言った。

私は「不思議な人だったなぁ・・・」と独り言をつぶやきながら改札を出た。



それからしばらくすると、急に涼しくなってきた。

なんと秋が来たのだ。

あの男が丁度終点についたあたりの時間だった。

私は電車表を広げ、さっきの電車の終点を調べてみた。





「出雲駅」





あの男は秋の神様だったのだろうか。

私は今でも男の嬉しそうな笑顔を忘れない─。
俺はね、半年前事故にあったんだ。

そして、そのとき目を傷つけてしまったらしくてね・・・。

失明は逃れたものの、徐々に徐々に俺の視力は下がっていったんだ・・・。

そして、もう周りのものがすべてボヤけてみえるようになったころの話さ。

俺はある発見をしたんだ。

俺が漠然とした不安を抱えたまま部屋のベッドの上に座っているとね、部屋の隅に黒いもやもやが見えたんだ。

なんだったと思う?

聞いたらきっと、バカバカしくなるぜ。

幽霊さ。

な、バカみたいだろ?

でも、初めは気づかなくてさ。

黒いもやもやは気づくと位置が変わってたりするんだ。

あのころは不思議でしょうがなかったね。

─────そうだな、例えるとすれば家の中に開かずのドアがあるような感じさ。

見えているのに何も出来ないんだ。

もちろん触ろうとはしたよ。

だけど、触れないんだ。

まったく腹が立つ。

四六時中黒いもやもやがいるんだからね。

で、その黒いもやもやがだんだん見えるようになってきたんだ。

そのうち気づいたんだけど、どうもあれは俺の目が悪くなればなるほどクッキリと見えるんだ。

あのころ俺はちょっと変になっていたのかも。

あの黒いもやもやがだんだんと人型になっていくのを毎日楽しみに見てたんだ。

それはある意味、目が見えなくなるのを楽しみに待っていたようなものだろう。

まったく気が狂っているとしか思えないよな。

で、そのうち、それが幽霊ってはっきりわかるようになったんだ。

いや、初めは怖かったさ。

でもさ、そいつが喋りだしたんだよ。

「俺さー、この前仕事でドジっちまってよ!それで金がなくなっちまってさ、自殺したんだ、自殺。あはははは。」

俺は拍子抜けしちゃって。

そいつ死人のクセに生きてる俺より明るいんだよ。

で、どうなったと思う?

・・・・・・・友達になった。

笑っちまうよ。あんなバカ幽霊と友達になっちまったんだからさ。ははは。

ところでさ、知ってたか?

いや、知るわけないよな。

その幽霊が言うにはさ、この世に未練を残して死ぬと、成仏できないでそのへんをさまよっちまうんだって。

なんでって言われてもわかんないけどそうなんだってさ。

でな、そいつがいうには一つだけ成仏する方法があるんだと。

「幽霊が見えるヤツを取り殺す。」

そいつが大真面目な顔でそんなこと言うもんだから笑っちまってさ。

大笑いしたよ。

事故にあってから初めてだよあんなに笑ったのは。

そいつのマジメな顔みたのそれが初めてで最後だったから冗談だとおもったよ。

だけどさ、それマジだったんだよ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

なんてなアハハハハ。

もしかしてお前ビビったんだろ。

でもな、幽霊なんてほんとバカバカしいよ。

な、おまえもそう思うよな。アハハ



だからさ、お前、俺が成仏するための身代わりに死ねよ。







すると、そこにあった黒いもやもやはだんだん白くなっていき、キレイサッパリ消えてしまいましたとさ。
ある日、貧乏な男が街を歩いていると空から1万円が降ってきた。

貧乏な男は「これぞ天の恵みだ」と思い1万円を拾った。

そして、貧乏な男はその1万円をすべて宝くじに使った。

なんと馬鹿な男であろう。

しかし見事に大当たりした。一等だ。

貧乏な男は「やや、あのお金は本当に天の恵みだったのだな」と思い、そのお金を足りない頭で一生懸命考えて使った。

そして貧乏な男は、小さいながらも社長になった。

しかし、それで運は終わらず、1年後にはついに大手の会社になった。

貧乏な男はお金持ちになった。





ある日、金持ちの男が道を歩いていると空から1万円が降ってきた。

お金持ちの男は「これは誰かの落し物だろう」と思い1万円は拾わなかった。

お金持ちの男は急成長した会社に業界最大手だった自分の会社を抜かれ、その責任を取らされて辞任させられてしまった。

おまけにその時に会社の金を横領していたことがバレ、持っていた財産を全て取られてしまった。

男は心の底から「ついてない」とつぶやいた。

お金持ちの男は貧乏になってしまった。

お金持ちだった男は死ぬ決心をした。

最後に死ぬ決意を固めるため、憎い急成長の会社の前を歩いていた。





ある日、貧乏だった男が社長室から下を見ていると、貧乏そうな男が歩いていた。

貧乏だった男は昔の自分を見ているような気がした。

そして、「もしかしたら自分のように1万円で人生が変わるかもしれないな」と思い、

窓からそっと一万円を落としてやった。
~ある研究所、ある博士、ある旧型ロボット、ある声~



聞きなれぬ声。
久しぶりの光。
君はそこで目を開く。
老人が話しかけてくる。


老人「気分はどうだい?」

君はまだ答えられない。

老人「私はこの小さな研究所で・・・・研究所と呼べるかどうかはわからんがね・・・・」

と、言って老人は苦笑する。
そしてまた話始める。

老人「この研究所で古代ロボットについて研究をしておる者だよ。」

どうやらこの老人は「博士」というヤツのようだ。

博士「君、名前はあるのかね?」

君はもう答えられるようになってる。

ラク「TYPE-RACK ラクガタ(楽型)と呼ばれてました。」

博士「おお・・・、喋れるのかね?ラクガタか・・・ラクでいいかね?」

ラク「はい。」

そろそろ動けるだろ?
立ってみてごらんよ。

    スッ

博士「おお・・・・、とても旧型とは思えん動きだ・・・。」

そして君はやっと大切なことを思い出す。

ラク「あの・・・、ボクのバイオリン知りませんか?」

博士「バイオリン・・・?そんなものはどこにもなかったよ。バイオリンがどうかしたのかい?」

君はまた気づく、

ラク「・・・・自分でもなぜ必要なのかわかりません・・・。」

博士「そうか、ラクは長い眠りについていたからね。忘れておるんだろう。だが、そのうち思い出せるさ。」

君が哀しそうな顔をして、博士も思い出す。

博士「あ、そうじゃそうじゃ。私が昔弾いてたやつがあった。それをあげよう。」

ラク「あ・・あの・・・・・」

博士「なんじゃ?」

ラク「あ、いえなんでもありません。」

博士「?」

君は自分のバイオリンじゃなきゃダメなのを言いかけてやめる。

~数分後~

博士は君の演奏を聞いて感動している。
早くして死んだ奥さんを思い出したようだ。

博士「ラク、君の弾くバイオリンの音色はとても不思議だ。つい一番幸せだった時のことを思い出してしまうよ。」

その夜、君は研究所を抜け出す。
そして、研究所を後にこんな言葉を漏らす。

ラク「博士、ごめんなさい。でもボクはどうしても自分のバイオリンを弾かなきゃ。」

そして君はボクに話しかける。

ラク「ところでさっきから話してるけどキミは誰なの?どこにいるの?」

ボクは答える。

ボク「ボクはキミさ。」

ラク「?」

ボク「もう一人の自分というヤツ。」

君は納得はする。

ラク「バイオリン・・・探さなくちゃ。」

ボク「なぜ、そこまでして固執するんだい?」

ラク「わからないけど、重要な気がするんだ。」

ボク「ボクはバイオリンなんて忘れて気ままなバイオリン弾きになるといいと思うけどな。」

君はもちろんこういう。

「そうはいかないよ。」

そして君はバイオリンを探す旅に出る。


~5年が過ぎる~


青い月の下、バイオリンの綺麗な音色が響いている。

そして、君はそこに横たわる。

ボク「もうエネルギーが底をつくころだよ。」

ラク「・・・・バイオリン、探さなきゃ・・・・。」

ボク「・・・・・・・。」


ボクは隠し続けていた事をラクに打ち明けた。


ラク「そうか、ありがとう。」

君は安堵の笑みを浮かべて眠りにつく。
もう起きる事はないだろう。
そしてボクもそろそろ終わりのようだ。


~数分後~

ラク「やぁ、待ってたよ。来ると思ってここで待ってたんだ。」

数分なのに、ものすごく久しぶりにあった気がする。

ラク「弾いていいかい?」

ボクはラクに身を任せる。

この白い世界全体に今までで一番綺麗な音色が響き渡った。
ある日突然、愛する女性をヤツに奪われてしまった。

私は彼女に生涯をささげると決め、何年間もささげてきた。

しかし、秋の空と女心は変わりやすいものであって、気持ちが移ってしまう時は移ってしまうものだ。

だが、わたしはヤツを直接殺すわけにはいかない。

ヤツは私の仕事の上司だし、殺せば人生がだいなしになってしまう。

私は無計画に怒りに任せて他人を殺すような阿呆な人間ではないのだ。

それにヤツを呪い殺した後は再び彼女とよりを戻すつもりだ。



私は呪いというものを信じている。

昔、簡単な呪いを実際に試したところほぼ100%の確立で成功してしまったのだ。

呪いを行ううえで重要な点は信じることである。

きっと呪いやおまじないとは『思い』や『念』によるものであろう。

相手を憎む気持ちが呪いというものを媒介にして相手に影響を与えるのだ。

それともう一つ大切なことは『呪いを行ったことを人に言ってはいけない』ということ。

だが、当たり前の話だが、私は呪いを行ったことを誰にも言うつもりはない。

そして忘れてはならないのが「三倍の法則」である。

呪いとはかけた本人にも三倍になって返ってくるのだ。

だが、いくら私が不幸になろうとも彼女を取り返せるのなら何だって我慢できる。



とにかく私は今から呪いを行う。

フィンランドに伝わる呪いに「呪いの弓矢」というものがある。

私は古書や呪いにまつわる本を色々と研究し、この魔法に決めた。

方法は簡略化するとこうだ。



まず呪いをかける相手の住んでいる方角を向く。

そして呪文を唱えながら弓矢をその方角に飛ばすのだ。

そして矢を放った後、目を閉じ、その矢が相手の身体に刺さり、相手が死ぬことを想像するのだ。

肝心の呪文はこうだ。



「闇を駆け抜けて、呪いの矢が飛ぶ、呪いを運びながら

 ×××(相手の名)に不幸、病気、絶望を与えるために

 さあ、今、矢は相手に刺さった。もう抜けることはない」



私は今、ヤツのマンションの方角を向き、矢を引きながら呪文を唱えている。

ヤツは今頃ベッドで寝ている頃だろう。

そして、「もう抜けることはない!」と強く叫び弓を引く手を離した。



ピュゥーーーーーーー!!



矢は音もなく飛んでいった。

そして目を閉じ

ヤツに矢が刺さりヤツが死ぬことを憎しみを込めて想像した。



そして、目を開けると、なんと偶然そこで抱き合っていたヤツと彼女に矢が刺さって倒れていたのだ!

矢は二人のノドを貫き、皮肉なことに私はヤツと彼女を永遠にくっ付けてしまったのである。

まさか、こんな形で呪いが返ってこようとは・・・・。

まったく、神や仏がいたら呪ってやりたい。



・・・・・・・・数分後・・・・・・・・




「闇を駆け抜けて、呪いの矢が飛ぶ、呪いを運びながら

 『神と仏』に不幸、病気、絶望を与えるために

 さあ、今、矢は相手に刺さった。もう抜けることはない」


矢は天高く昇っていった。

参考文献:二見書房「悪魔学入門」
ちなみに作中の呪いは少しアレンジしてありますのであしからず。
彼女はいつも夜になるとロウソクもつけず月明かりの下で人形と会話していた。

会話・・・・・・正確には彼女しか話していなかったが、会話と呼ぶのが一番しっくりくる。

僕はそんな彼女をいつも見ていた。

僕は彼女を愛してしまっていた。

彼女はとても美しかった・・・・まるで人形のように。



しかし、ある朝彼女は消えていた。

いや、僕にはわかる、彼女は消えてはいない。

彼女はちゃんとここにいるのだ。

今彼女は僕の横にいる。

そして、こんな事を言うのだ。

「今夜は月が出ていて綺麗ね。」

そして僕はこう言う。

「今夜も君と話が出来て嬉しいよ。」

「あなた珍しくむずかしい顔してたけど、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。なんで君と話ができるようになったのか考えてただけさ。」

「いいじゃない、そんなむずかしいことは。」

「それもそうだね。」



月は今夜もやさしく2体の人形を照らす。
貞夫は非常に合理的な性格の人間だった。

だから幽霊や宇宙人などももちろん信じていなかった。

「なぜ信じないんだい?」と友人に聞かれると必ずこう答える「見たことないからね。」。

ある日そんな貞夫の前に妖精が現れた。

「こんにちわ貞夫さん。神様に言われてあなたの願いを1つだけ叶えにきました。」

妖精といっても少女が夢見るような小奇麗な女性ではなく、コジキのような男の妖精だった。

貞夫はいきなり妖精が目の前に現れて「神様」だの「願いを叶える」だの非現実的な事を言われたというわけだ。

貞夫のような「合理的」な人間が周りにいるなら想像してほしい。

もし目の前に妖精が現れたとして「信じる」だろうか?

とりあえず、貞夫の反応はこうだった。

「しまった。なんということだ、ついにこの僕の脳に異常が発見されてしまったのだ!」

実に合理的な考え方である。

しかし、目の前の妖精はこういう。

「いえ、あなたの脳はいたって正常です。」

だが、合理的な貞夫には逆効果。

「あぁぁあぁ・・・・神様、仏様、私の願いをお聞き下さい・・・。」

そこで待ってましたと妖精。

「はいはい、そのために神様に使わされて来たのですよ。なんなりとお申し付け下さい。」

貞夫はまったく聞いていない。

「神様、仏様!この忌まわしい妖精を私の目の前から消して下さい・・・。私を元に戻してください・・・。」

貞夫は今にも泣きそうな表情である。

そして、妖精。

「はいはい、どんな願いでも叶えますとも。」

「神様・・・仏様・・・・。」

「じゃあ、いきますよ、3・2・1・ホイ!」

そう言うと妖精は貞夫の前からパっと消えた。

「おお、消えた!やっぱり僕はしばらく幻覚を見ていただけなんだな。脳に異常がなくて本当によかった。」

そういって心から「神様」に感謝すると、そのまま会社へ出かけて行った。



そして貞夫は、友人に聞かれるともちろんこう答える。

「見たことないからね。」

実に合理的なこの男は今日も平和に暮らす。
「ついに出来たぞ!」

「博士、ついにやりましたね!」

「あぁ、ここまでの道のりは長かったよ。」

「ところで、それはなんなんですか?私は助手でありながら博士が何を作っているのか知らないで手伝ってきました。そういう契約でした
ので。でも完成したんだから教えてくれますよね。」

「そうだな、秘密を守るために助手であるおまえにもこれが何か言わなかった。」

「はい、それで?」

「これさえあれば人類全員が私に感謝するだろう発明だ。」

「もったいぶらないでくださいよ。」

「いま、お前も知っての通り、16年前の大規模核実験で世界中は放射能だらけだ。だからこうして屋内でも防護服を着込まなければな
らん。」

「はい、この防護服というヤツ生きていくために着なければならないとはいえ私は嫌いです。動きにくいし、絶対に脱げないし・・・。」

「私もだ。そこで、この発明が役に立つのだ。これはいうなれば放射能回避目薬といったところでな。これを点眼すると、放射能を受けて
も平気な体質になるのだよ。これさえあれば人類はこの防護服なしで再び外を自由に歩きまわれると言うわけだ!どうだ凄いだろう?」

「それは凄い発明ですね博士!」

「では、最後の仕事だ。歴史に残る初のこの目薬の実験体になってくれるか?安全性などはお前も承知のようにかなりの時間をかけて

調整した。完璧だ。」

「はい、もちろんですとも。是非とも自分に試させてください。」

「じゃあ頼むぞ。」

「では、点眼しますね。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「博士!防護服が邪魔で目に入りません!」