しとしとと雨が降る。
秋の雨というのはどこか哀愁ただよう。それが夜となればさらに淋しさが募る。
今日は傘を忘れてしまった。天気予報はいつも外れる。こんな時間に開いている店などあるわけもなく私は仕方なく雨に降られて道を歩いている。
ふと気がつくとひたりひたりと後ろから足音が聞こえてくる。
きっと同じ状況の人がいて傘もなく歩いているのだろう。天気予報というのは本当に当てにならない。
ぽつりぽつりと数百メートルおきにしかない電灯の灯りをたよりに道を歩いていく。

雨の夜に道を歩くたびに思い出すことがある。
私は当時とあることで挫折し、人生に絶望していた。どうなってもいい、周りの人間が全て憎いと思って夜家を飛び出した。その日もこんな小雨の降る夜だった。
私は夜ライトも何もつけずに歩いていると赤い服を着た女を見つけた。世の中の全てを憎んでいた私はその女を襲い、首を絞めて殺した。
殺した後で我に返り、しかしパニックだった私は走って家に逃げ帰りシャワーを浴びて寝た。
私は次の日に目を覚ますと怖くなりニュースをつけた。しかし女性が殺された事件はどこのニュースもワイドショーも報じておらず、私は布団にくるまっていた。
翌日も翌々日も女性の殺害されたニュースなどはどこにも報じられず、また近所で警察が聞き込みをしているような気配もなかった。
私は不思議に思いながらもあれは悪い夢だったんだと決めつけることにして忘れようと努力した。
あれから数年経った今でも秋の夜に小雨が降っているこんな夜はその事を思い出してしまう。
結局あれはなんだったのだろう。

ぼんやりとしていると後ろのひたひたという足音が消えた。私は不審に思い後ろを振り返ってみるとそこには誰もいなかった。
あの時殺した女が幽霊になって私に復讐しにきた・・・?
ふとそんな考えがよぎった瞬間、私の首は女によってキツく絞められていた。
どこから・・・?と思った次の瞬間私の意識は遠のいてしまった。

「昨晩S市の薄暗い路上で赤い服を着た女性が何者かにより首を絞められ殺害されました。警察は現在も犯人を捜索していますが、全く形跡が残っていません。何か心当たりのある方はすぐに最寄りの警察署まで。」
道端にカセットテープが落ちていた。
ほんの十数年前までなら特にふしぎな光景でもなく、当たり前のように落ちていて当たり前のように誰しもが見て見ぬふりをするような何の変哲もないカセットテープだった。
だがスマートフォンが発達し、DVDやハードディスクやブルーレイなんてものがあるこの時代に道端にカセットテープが落ちているのは明らかに不自然であり、私がそれを手に取ってしまうのも自然な光景と言えた。
もちろん私はそのカセットテープ自体が欲しかったのではなく、その中身が知りたかったのである。
カセットテープのタイトルには「想い出」とだけ書いてある。
確か実家にカセットデッキが置いてあって、まだ壊れていなければ再生できるはずだ。
すぐに実家に連絡してカセットデッキを送ってもらうことにした。

ふと、このカセットテープの事を考える。
このカセットテープはいつごろ録ったものなのだろうか。
普通に考えればこうだ、大昔に録ったカセットテープがいらなくなりゴミに出して誰かに見られるのも嫌なので道に捨てた。
しかし、こうも考えられる。つい最近意図的にカセットテープに録音して、それを誰かに聴かせるために道端に置いたのだとしたら?
そう考えるとこのカセットテープを聴くのが怖かった。
だか、そう考えると余計に中身が聴いてみたくて仕方なくなってしまった。人間とは好奇心の強い生き物なのだ。

数日後実家からカセットデッキが郵送されてきた。
この数日間はこのカセットテープの事を常に考えていた。
まさか呪いのテープなのではないか、聴いたら一週間以内に他の人に聴かせないと死んでしまうのではないか、カセットデッキから幽霊が出てくるかも、いやいやそんな訳はない。そもそもこのカセットテープがまだ聴けるのかどうかもわからない。それに何も録音せずに古いテープをイタズラ目的で道端に捨てただけなのかもしれない。しかし「想い出」とは・・・?
まず人のプライバシーの入ったものを勝手に聴いたりしたら法律違反にならないだろうか?この歳で犯罪者はいやだ。でもでも持ち主が落としたものを聴いて本人への手掛かりを探して警察に届ける、というのも一般市民の義務ではないか?そうだ、そうに違いない。ウム。

結局私はここ数日このカセットテープのおかげで色々楽しい思いをさせてもらったような気がする。
それはさておきカセットデッキが届きカセットテープがここにある。聴くのが自然な流れといえよう。ウム。
私は神妙な手つきでカセットテープをカセットデッキに入れ、神妙な面持ちで再生ボタンを押した。

「初めまして、これを聴いてる人。」
若い女の声だった。
「これをあなたが聴いてる時、私はもうこの世にはいないと思います。」
え・・・この世にいない?
「私は今、癌で入院しています。大変難しい手術をしなければ余命1年と言われました。そして明日が手術の日です。この手術は難しいそうで、上手くいかない可能性が高いと医者から直接言われてしまいました。」
このカセットテープは遺書のようなつもりで録ったのだろうか。興味本位で聴いたことを少し反省した。
「きっとこれを拾って聴いたあなたは興味本位で拾って聴いたのだと思います。」
ギクリとした。
「でも私はその好奇心のおかげで見ず知らずのあなたに私が生きた証を伝えることが出来るのですから、感謝します。」
人間とは好奇心の塊なのだ。
「私はこのカセットテープに今まであった楽しいことだけを録音したいと思います。もちろん今まで短い人生ですが生きてきて、いやなこともたくさんあったけれど、それでもこのテープには楽しかったことだけを録音して見ず知らずの誰かの想い出の中で生きたいと思います。そう思ってこのテープを録りました。勝手なお願いですが、もしこのテープをここまで聴いてくれたのなら私の些細な幸せな出来事しか語れませんが最後まで聴いて、あなたの想い出の1ページとして記憶してください。」
そのカセットテープにはきっと年端もいかない少女の子供の頃から今までの≪よかったこと≫がつらつらと語られていた。
子供の頃に道に迷った時に見知らぬ人に親切にしてもらえたこと、隣の男の子に消しゴムを拾ってもらったこと、初恋の男の子に生まれて初めて作ったチョコレートを渡したこと、部活の大会で2回戦まで進めたこと、受験に受かったこと、はじめてのキスをしたこと。
そんな些細な幸せの記憶が楽しそうに語られていた。
テープの45分のうちほとんどが幸せな記憶の断片だった。
最後にこう括られていた。
「最後に一番嬉しかったこと、それはこの風船につけて飛ばしたカセットテープをあなたが最後まで聴いてくれたこと。本当にありがとうございました。短かったけど私は幸せな人生だったと思います。さようなら。」
聴き終わった後なぜか目から涙が出て止まらなかった。
一人の少女の人生が詰まったこのカセットテープを私は生涯大切に保管して行こうと思う。
一人の少女の人生の幸せな想い出を生涯私の想い出として刻んで行こうと思う。
きっとこの少女の手術は無事に成功し退院して、自分のあられもない過去を語ったこのカセットテープを黒歴史として必死で記憶から消そうとするはずだ。でも絶対に消えない想い出。
私はそんな少女の大人になった姿を考えて少し笑った。

秋の空は気持ちよく晴れている。
この風船もカセットテープ付きじゃ、そう遠くには飛ばないだろう。
近所の大きな病院をいくつか当たってみるのもいいかもしれない。
きっとそこには元気に幸せそうな顔をした少女がいるはずだ。
私は玄関から外に出て空気を思い切り吸った。
気付いたら白い部屋にいた。
周りには誰もいない。どうやら一人のようだ。
いつからここにいたのかもわからない。とにかく気付いた時にはここにいたのだ。
10畳くらいの広さはあるだろうか。ただただ白い。
10畳というのは不思議なもので家具や物が置いてあると狭く感じるのだが、何もないとただただ広く感じる。
周りには本当に何もないトイレやシャワー冷蔵庫に照明すらない。しかし不思議と暗くはなく明るいのだ。その明るさが逆にこのただただ広い空間を余計に広く感じさせる。
この白く何もない空間を眺めていると、ふと郷愁に駆られた。
昔スマートフォンも携帯電話もないころ深夜に起きているときはただひたすら時間が長く、何もなかった。夜が無限に思えて、その時の感覚に似ている。ただこの部屋にはその暇を紛らわすための本もラジオもないのだ。とにかくどこまで行っても何もない。
そこでまた違う郷愁に駆られる。
孤独だ。
友達や恋人がいても結局人間はどこまで行っても一人で、友達や恋人は寂しさを紛らすものにすぎない。ふと気がつくと自分が一人であることに気付いては絶望する。その繰り返しの人生だった。
この白い空間はそれを体現するかのようにただただ孤独である。
結局寝て起きたらこの白い部屋から抜け出せているのだろう、ただそれでもこの白い部屋はいつでもそこにあるし、いつでもそこに入り込んでしまうものなのだ。
この白い部屋というのは人の心の欠陥であり、同時に逃げ場所なのかもしれない。
いくら満たされても我々はこの白い部屋に入り込んでしまうし、逃げ込むこともできる。
それこそが自分自身の芯にある自我なのではないだろうか。
私はそっと目を閉じる。きっと目を開けたときそこにはいつもの世界があり、何事もなく平日が始まる。ただこの白い部屋のことは忘れないように心に刻んでおこう。
何もないこの部屋こそが自分自身なのだから。
「キミはこの世で最も暗い呪いがあると言ったら信じる?」
唐突に先輩は語り始めた。
「どういうことですか先輩。」
僕は躊躇いながらも先輩の突飛な話に合わせようと必死だった。
「去年の春この学校の桜の木で首を吊って死んだ女性徒がいるんだ。知ってるよね。」
もちろん知っていた。春の桜が散る頃に校内の桜の木で首を吊って死んだ女性徒がいたのは学校でもショッキングなニュースとして伝えられていた。
先輩は続ける。
「その女性徒の知り合いによると世の中のぼんやりとした不安に駆られて死を選んだそうだけど、私に言わせれば違う。結局その女性徒は世の中と自分との《折り合い》がつかなかったんだよ。」
先輩はハッキリと言い切った。
「つまりどういうことですか?」
僕はなんとか言葉を絞り出した。
「簡単に言うと恋人の浮気に気づいてしまったのさ。」
「恋人に浮気されててそれを苦に自殺したってことですか?」 
「そういうことになるね。結局のところ彼女も若者だったということさ。」
「それはさておき--」
先輩は続ける。
「キミは最もくらい呪いなんてものがこの世にあると思うかい。」
「いえ、僕は生まれてこのかた幽霊だとか宇宙人だとか超能力者には出会ったことがないもので全くそういうものは信じてません。」
「いやいや、そういうオカルトの話をしてるんじゃないんだよ。」
呪いもオカルトの一種だと思うのだが・・・。
「キミはあの事件以来この学校の生徒の自殺が相次いでいるのを知っているかい?」
初耳だ。自殺なんてことは後ろめたいことで意外と耳には入ってこないものなのだ。
「とにかくあの事件以来この学校では自殺が相次いでいる。もちろん去年の自殺者は0だ。」
「それが呪いだとでも?」
「話を最後まで聞いてくれ。その自殺者は皆桜の木で首を吊っているんだよ。」
僕はすこし怖くなった。先輩の目はいたって真面目なのも怖さに拍車をかけた。
「もちろん校内の桜の木なんてことはない。そんなことになれば殺人事件として警察が調べているだろうからね。」
「先輩はみんな呪いで自殺したと言いたいんですか?」
「そう、呪いだ。」
呪いなんてあるはずがない。そんなものがあったら世の中は大変なことになっている。そんなオカルトがないからこそ世の中は平常運転でいられるのだ。
「キミは呪いについて勘違いしているところがあるな。」
「勘違い?呪いとは人に怨念がかかって不幸になることではないのですか?」
「ある意味間違ってはいないね。でも呪いというのはもっと概念的なものなんだよ。」
概念?よくわからなかった。
「去年の春桜の木で首を吊って死んだ女性徒は本人の思うところとは裏腹に負の感情を遺して死んでいったことだろう。その結果それを知った生徒たちがその女性徒に少なからず共感したんだね。その中にはきっと勝手な想像で共感した者もいただろう。しかしつまりその女性徒の死という事実を知り過程を補完し自分を死に追いやった。それが《呪い》でなくて何なのだろう。結局この世には幽霊だとかオカルトなんてものは存在しない。でも人は人に共感して死を選ぶこともあるということなんだよ。」
僕はまくしたてるように話す先輩の話を聞いていて、ふと不安になった。
「先輩は・・・先輩は呪いで死んだりなんかしませんよね。」
「当たり前さ。私はキミに恋をしてるし死を望むほど人生に絶望したりなんてしてないよ。」
先輩の儚げでいて自信たっぷりの微笑みを見て僕は安堵した。
呪いとは結局受け取る側次第なのだ。
死の結果を受け取るのか、恋をした過程を受け取るか、それは本人次第なのだと思う。
桜は幸せに笑っているかのように満開だった。
A子は暖かな春の日に満開の桜の木で首をくくって自殺した。
彼女は僕の恋人であり、僕はひどく心をしめつけられた。
なにより僕が傷ついたのは彼女の自殺の原因、理由がわからないことであった。
僕たちは端から見ても上手くいっている方のカップルだったし、実際上手くいっていた。

「あなたは人間が人間たる理由はなんだと思う?」
ある日唐突にA子は言った。
「知性とか?」
僕は月並みな答えで応えた。
「私はね、Nくん。私は人間が人間でいられる理由は死を認識しているかどうかだと思うのよ。」
「死を認識?」
「動物は自分が死ぬことを知らないわ。人間は進化のある段階で自ら未来に待ち受ける死を認識したと言われているの。ネアンデルタール人が墓に花を供えていたという話もあるわ。人類は進化の過程で知恵を身につけていくうちに自らの死を悟ってしまったわけね。しかし絶対の死という恐怖を認識してしまった人類はどうしたと思う?」
「どうしたの?」
「あの世とか霊魂の存在をつくり出したのよ。絶対の死という恐怖に耐えられなかった人間は、その先にあの世があると思い込むことで脳のバグから身を守ったのね。」
「なるほど。」
「だけど現代人は科学の発展でまたあの世の存在が疑わしくなってきている。つまりとても不安定な存在と言えるわね。」
「天国が消えた。」
「再び人間は死と向き合わなくちゃいけないの。」
「・・・。」
A子が何を言いたかったのかその時の僕にはよくわからなかった。
しかし彼女は結局のところ怖かったのだ。自分が人間であるという証明を得たかったのだ。
だから桜の木に首をくくって自殺した。
きっと僕には何もすることは出来なかったんだと思う。
優しく抱きしめたところで、頭を撫でたところで、キスをしたところで彼女はきっと逝ってしまっただろう。
人間が人間たる理由。
僕は人の死を悲しむことこそが理由だと思う、そう思いたい。
彼女は死んでも愛は消えない。
桜の花は散っても木は残るのだ。
桜の木の下には暖かく優しい風が吹いていた。
「こんど月が落ちてくるんだって」

そんな話を聞いたのは2ヶ月前。そしてこれはKのデマカセなんかじゃなくて本当のことだった。NASAから公式に発表された時は本当に驚いたし、混乱した。だって半年後に月が落ちてくるのだ。人類滅亡だ。
しかし2ヶ月も経つと意外と混乱は収まり、人々は普通の生活を送ってしまうのだから不思議なものだ。
でも僕はこれがおかしなことだとはちっとも思わない。
人間というのはある種の機械的な、宗教的な、信仰的な生活習慣というものがあり、それを崩す方が不安感が増すのだ。
それにそもそも人間の力でどうにもならない事象が起こるとわかってしまった時、それに抗うよりもなし崩し的に受け入れてしまうものなのだろう。
しかし月が落ちてくると知る前とは明らかに違う。
どこか人類全体の傾向が退廃的で儚げな印象を受ける。

そんな中僕は何をしているかというと、例に漏れず学校へ通いKと雑談しているのであった。
「お前さー、地球が終わる前にやりたいこととかあるん?」
Kがふとそんな事を口にした。
「なんだろう、昔好きだった子に告白くらいしてみたかったよ。メアドも今の住所も知らんけど。」
僕には中学の時に好きな子がいたのだ。
「えー、普通すぎじゃないそれ。」
「じゃあKは何がしたいのよ。」
「俺はさー、一度でいいから殺人がしてみたい。」
ゾッとした。Kの顔も口調もいたって大マジなのだ。
「えっ?」
僕はつい聞き返した。
「いやだからさー、どうせ月が落ちてきたら地球壊れて人間なんてみんな死ぬじゃん?そしたら今1人くらい殺しても許されね?」
許されるかバカ。
「ということで俺は殺したい人をここ1週間考えに考え抜いたんだよ。」
「・・・誰だよ。」
仕方なく話を合わせる。
「嫌いなやつを殺すってのも考えたんだけど、それって別に今更だと思わない?だってどうせそいつらももうじき一律に死ぬんだから。それで俺は考えたわけよ。一番好きな子を殺したらその子の思い出に一生残るんじゃないかって。」
何言ってんだこいつは。
「その子の人生に俺という存在を刻みつけたいんだよ。」
Kはあくまで大マジなのである。
「あーわかったわかった。勝手にやれよ。ただ僕は巻き込むなよ。」
どうせもうすぐ終わる世界なのだからKがどうなろうと知ったことではない。
「いやーそれがさー・・・実はもうやっちゃったんだよね。」
へ?
「いやだから、その好きで好きで愛してるI子を殺しちゃった!」
マジかよこいつ。
「でさ、どうせ終わる世界とはいえ最期を監獄で過ごすなんていやじゃん?だから死体埋めるの手伝ってほしいんだよね。」
マジかよ。
「人間って死ぬとあんなに重くなるのな。1人じゃ運べないんだわ。と、いうことで今日の夜1時に学校の裏の雑木林に来てくれよ。」

バカじゃないかこいつは、と思ったが僕はどうせ終わる世界だし、そういう経験してみるのもいいかなーなんて思ったりもした。何より親友であるKなしで残りの日々を暮らすのは退屈な気がしたのだ。
そして深夜僕は学校裏の雑木林にKとI子であったモノと共にいた。
「なんで学校裏の雑木林なんかに埋めるんだよ。こういう時はもっと誰も立ち入らない山奥とかに埋めるっしょ。アホ?」
「いやいや、ここでやっちゃったからね。でも俺はここに埋めようと思う。灯台下暗しということわざもあるしな。」
こいつアホだ。
まぁでもあと数ヶ月ならこんなところでもバレないか。
「まぁあと数ヶ月ならここでもバレないっしょ。」
なんかシンクロした。
Kと穴を掘りながら雑談した。
「そもそもなんでI子のこと殺したん?告って断られた?」
「いやいや、ダメ元で告ったらOKされちゃったよ。世界が終わるからかな?」
「だったらなんで殺したんだよ。」
「どうせ世界が終わるんだから今から付き合って思い出作っても意味ないっしょ。俺は好きな子を自分の手で殺して一生の思い出を作りたかったの。I子といまさら付き合いたくなんてなかったんだよ。」
相変わらず言ってることがよくわからない。まぁKなりに色々考えたんだろうな。I子はかわいそうだけど。
「で、どうやって殺したの?見たところ外傷はないみたいだけど。」
「え?それ聞く?言うわけないじゃん。俺とI子の二人だけの思い出だよ。」
「あ、そう。よくわかんないけどわかった。」
よくわかんないけど。
そうこうしてるうちに人一人ギリギリ入るくらいの穴が掘れた。
「じゃあお前足持って。パンツ見るなよ。」
「わかったわかった。」
I子の足を持つと意外と重くてびっくりした。
これが命の重さか・・・なんてニヒルに考えていた。
どさっ
二人がかりなのでなんとか穴に持っていけた。
「なんかさ、わるいね。」
急にKがあらたまってきた。
「いや別にいーよ。俺も世界が終わる前に何か特別な体験っつーの?してみたかったし。あとお前とこうして何かしてることが楽しいんだなって再認識できた。」
「いや、ほんと悪いね。人の色恋沙汰に巻き込んじゃって。」
僕らの日常じゃない夜はこうして終わっていく。

きっと僕らは非日常的な日常を送って、世界には月が落ちて当たり前のように終わっていくのだろう。
こんな非日常的な行為ですら、すべて飲み込んで消し去ってしまうのだろう。

月は今にも落ちてきそうに大きく輝いていた。
ここ数日お風呂場のクルクル窓のところにスズメが休んでて、お風呂に入ろうと窓を閉めるとバサバサ焦って逃げて行く。かわいい。
明日もまた帰ってきてくれるように、少し多めに開けておいた。
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ワンダースワンカラー
以前ゲームショップでFF1同梱版が千円くらいだったので買ってみた。
FFやったことないし、暇つぶしにFFやるかーと思ったら、のちのちGBAでFF1が出てたことを知る。
さらにスワンカラーびっくりするほど画面暗い!(のちに改善されたスワンクリスタルが出るほど)
すぐにお蔵入りしました。
当時GBカラーとネオジオポケットにハマってて、スワンは手を出さなかったから隠れゲーがやりたい。
確か本体が4800円と、とてもリーブナブルだった記憶。
しかも電池一本で60時間起動するらしい。
でも当時携帯ゲーム機はカラーが主流。
そんな時代の流れに負けて、それなりに売れたものの結局埋れていったハード。
開発したのは元任天堂でGBなどを手がけた横井軍平さん。
スワンの代名詞的ソフトのグンペイは多分この人から来てる。
縦持ち表示も出来たりして、中々面白そうなハードだった。
PSP初期のピンボールゲームも縦持ちがあったような気もする。
そういえばエヴァ破でアスカもやってたけど、あれ画面が光ってるよ!魔改造スワン?!
僕はね、ある日死のうと思って夜中に樹海を目指して車で走っていたんだ。
何故死のうと思ったか?それは今回の話とは直接関係ないから、伏せておくよ。
ただ、とにかく僕はその時世界に絶望して、半分夢を見ているような朦朧とした状態で運転していたのを覚えているよ。
だから、これから話す事もただ僕が見た夢だったのかもしれない。
少し話が変なところもあるかもしれない。
ちなみにこの話は幽霊だとか、オバケだとか、宇宙人の出てくるような話じゃないってことは断っておくよ。
変に期待されても困るからね。

とにかく僕は樹海に向かって車を走らせていた。いいかい?
先に断っておくけど、もちろん一人さ。
誰かと連れ立って自殺するなんてのは、僕の中ではフェアじゃないと考えていたからね。
「死」ってのはあくまでも孤独であるべきなんだ。
なかなか話が進まないね。
もう一度言うけど、僕は一人で車を運転していた。はずだったんだ。
気づいたら後部座席に小学生くらいの女の子が座っていた。
そしてバックミラーごしに、僕のことを見つめているんだ。
ビックリしたと思うかい?これが案外そうでもなかった。
死のうとして、意識があまりはっきりしていなかったこともあるし、場所も樹海だ。
そしてこれから死ぬ僕は、まぁそういうのもいるんだろうな、逆に死後の世界、死んだ後になっても魂が残るのかなんてウンザリしたりもした。
だから僕は無視することにしたんだ。
人が自殺しようとするときって、どういう心境だと思う?
少なくとも僕は、天国に行きたい地獄に行きたいなんて一切考えなかったよ。
ただ、この続く螺旋から降りたい。逃れたい。終わらせたい。
そう考えていたね。
だから、そいつの存在自体をただの幻覚と決めつけることにしたんだ。

だけど、あろうことかその女の子は僕に話しかけてきた。
「ねえ、あなたしににいくんでしょう」
抑揚のないふしぎな喋り方だった。
でも不思議と気味が悪いとは思わなかったな。
僕は無視を決め込もうと思っていたけど、話しかけられちゃ仕方がない。
というか、少し衝動的に答えてしまった。
「ああ、そうだよ。終わりにするんだ。」
「なぜ?まだそこそこわかくみえるけれど」
そこそこ・・・・女の子の言葉に軽くショックを受けながらも答え続けた。
「年齢は関係ない。この世界にはキミくらいの年齢の子供だって自殺を選ぶ子がいるんだ。」
「そう、でもあなたまだしにたくないというきもちがのこっているようにみえるけれど」
えっ?と思った。
確かに僕は全てを終わらせようと思って、樹海に向かっているが、言われてみると未練のようなものがまだ残っている気がしてきた。
こうなるとたちが悪い。一度未練を感じると、実行に移すときにためらいが生じて、変に失敗してしまうことがあるのだ。くそ。
僕は苛立ちながらも、意識がはっきりしてきたことで気になったことを聞いてみた。
「キミは一体なんなんだ」
返事がない。
バックミラーを見るとそこには誰もいなかった。
車を停めて後部座席を確認してみても、女の子など最初からいなかったかのように消え去っていた。
結局その日は気持ちをくじかれて、家に帰ったんだ。
ふしぎな話だろう?

そして、その後僕は色々と事がうまく行き始めて、いつの間にか自殺だなんてことを考えないようになっていたんだ。
しばらくして、あの女の子はきっと森の守り神か何かで、僕を救ってくれたんだと思うようになっていた。
ある日ふと思い立って、樹海にある神社に感謝の気持ちを告げようと思ったんだ。
そして車を走らせていると、キミがまたそこにいた、というわけだ。
前と同じように後部座席に。
僕はキミになんとお礼を言えばいい?子供が好きそうなおもちゃのお供え物も持ってきたんだ。あの時はありがとう。本当にありがとう。キミは―――
「おれいなんていらないわ」
「あなたうんめいってしんじている?」
「ここでいうのはうんめい、というよりじゅみょうのはなしなのだけれど」
「あなたあのときはまだじゅみょうではなかったのよ」
「しぬうんめいではなかった」
「あなたがしぬのは―――」



車はガードレールを突き破り、樹海の樹に衝突し原型をとどめていなかった。