次の日、俺はいつも通り朝9時に事務所に着いた。
事務所に着いたら、掃除と植物に水をやるのが俺の役目だった。
だが、俺は、掃除はしない。いつも掃除機の向きを変えてただけだった。
店長が朝、事務所に着いた時に掃除機の向きを確認しているのを知っていたから。
植物に水はやっていた。
かわいそうだし。。。
朝、11時くらいに店長はやってくる。今日も。。。
朝から何やら機嫌が悪い。
昨日の群馬の件だろう。。。
店長が到着後、すぐに銀行へ小切手入金の指示を受けた。
昨日の群馬のヤツの小切手だ。
俺は、すぐに近くの三井住友(当時)へ行き、小切手の入金をした。
小切手の入金は、仮の入金だから、通帳にも仮の金額が記入される。
決められた日に相手の当座に現金が無い場合、不渡りとなるんだ。
2度の不渡りまで、銀行は大目に見るが3度目は絶対にない。
不渡りになると、一斉に不渡り者へ債権者が債権回収を始める。
そうなると、仕事どころではない。
家、車、財産。。。すべて差し押さえになる。
だから、不渡りだけは会社を運営している以上、絶対に阻止しなければならない。
だが、群馬の客は、当然不渡り。
そりゃぁ、そうだよ。家が占有されてるじゃん。
占有されてて不渡りにならない訳が無い。
店長!でもいいじゃん!利息だけでも300万近くは取ってんだから。
前向きに考えようぜ!!!
俺の立場が上ならこう言ってやるんだけど。。。
っていうか、俺の客じゃないし。。。
会社では、自分の客は、自分で取り立てるのが決まりだった。
群馬の客は、店長が貸した客。
当然、店長の指示で動かされてたってこと。。。
自慢じゃないが、俺は、取立てに失敗した事は無かった。
数え切れないくらいに取り立てに行ったが、すべて回収した。
ある日、小林という俺の客から電話が来た。
内容は、資金繰りに苦しいから追い貸しして欲しいと。
こいつには、90万近く貸していた。
だが、事情を詳しく聞こうと思い、事務所に呼んだ。
小林が事務所に着き、事情を聞いているとなんだか落ち着きが無く、様子がおかしかった。
当時、事務所は、10F建ての8Fにあった。
事務所を抜けるとベランダがあり、そこからビルの入り口が見えるような設計になっていた。
俺は、小林の話の変化から、察知し、すぐにベランダから下を見た。
案の定、下には、ヴィトンのバックを持ったいかにも金融スタイルのヤツがいる。
小林は、今、まさに!取り立て中だったんだ。
俺は、小林のもとに戻り、取立て中だって事を確認した。
ようは、付け馬だったんだ。
付け馬とは、取立ての基本中の基本。
債務者と一緒に金融会社などに行き、金を借りさせる事。
付け馬でうちに来るなんて馬鹿だよ。
小林の取立てが始まった瞬間だった。
まずは、下の金融スタイルの付け馬君が邪魔だったので、取り合えず事務所の中で時間をつぶした。
事務所の近くには、スターバックスがあったので、時間がたてば、必ず金融スタイルのヤツはそこに行くと思っていた。
1時間が経過しただろうか。
再度、ベランダから下を見るとさっきの金融スタイルのヤツは居なかった。
確認の為、スターバックスへ行ってみると、のんびりコーヒーなんか飲んでいた。
ヴィトンのバック。ダブルのスーツ。ベスト。恐モテ??顔の金融スタイル。
何がかっこよくてそんなの着てんだか。。。
バレバレじゃん!
一方、俺のスタイルは、いかにもサラリーマン。
3ボタンのリクルートスーツ。髪も黒髪。
神田に馴染んだ一般的なサラリーマンスタイル。
また、知的な???顔立ちの為、絶対に金融やってるなんて思われない。
スターバックスに居る事を確認した俺は、事務所に戻り、小林と外に出た。
スターバックスは、神田駅の目の前だったので、歩いて秋葉原の方へ向かう事にした。
秋葉原から、山手線で上野まで行き、そこから埼玉の草加市まで行った。
草加市に着き、そこからは、小林の車で移動を始めた。
車の中では、たわいも無い世間話。
小林は、ビートルズの大ファンだった為、俺との話も合った。
っていうか、俺は、ビートルズのファンでもなんでもないんだが、一方的に質問し、小林の話を聞いていた。
他の金融業者の取立てでは、考えられない取立てだろう。
普通の取立ては、みんな罵声を言ったり、怒鳴ったりと、とにかく脅しの取立てだったから。
だが、俺の取立ては違う。
生活、趣味、家族、仕事。。。様々な生活環境の話題から安心させ客の懐に入って行く。
金の話は一切しない。
小林とは、一緒に3日間ほどカプセルホテルへ泊まった。
その間、色々な話をした。
3日目になり、小林がこう切り出した。
金はある。だが、次の仕事の資金にしたいんだ。っと。
だが、金を返さないと他の金融業者や付け馬君など一斉に群がってくると俺は言い返した。
それを聞いた小林は、、沈黙を続けた。
俺には、それが、助けてくれるのを待っているように見えたんだ。
そこで、俺は、知り合いの弁護士に頼んで、債務を整理してやると。
だが、その費用は、50万ほど掛かるがいいか?と質問した。
小林は即答でOKをだした。
会社の利息含めた債務100万と弁護士費用50万。合計150万の用意をさせた。
人間は、何て欲深いんだ。
借りるだけ借りといて、返したくないなんて。
150万を小林の事務所へ取りに行った。
他の金融業者が居ないのを確認しての行動だったので、スムーズに事は進んだ。
知り合いの弁護士は、池袋に事務所があるから池袋へ向かう為、
小林の車に乗り込み駅へ行き、そこから池袋まで向かった。
電車の中では、小林のテンションの高さが伺えた。
そりゃぁ、そうだよ。闇金業者13~15件分の債務が帳消しになるっていうんだから。
事前に、小林の手帳を見せてもらい、借り入れ金額、金融業者の店舗名などを見せてもらっていた。
元金 利息
10万 → 2万
30万 → 7万
14万 → 3.5万
2万 → 5万
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合計、260万ほど。。。すべて10日サイクル。
これじゃぁ、資金繰りに苦しむわけだよ。
電車に乗って、上野を過ぎた頃、小林の携帯がなり始めた。
小林は出ようとしていたが、俺が阻止した。
携帯は、留守電になり、会話が録音されていた。
録音終了後、俺は、それを聞いた。
「ライオンだけど、さっきは、よくもやってくれたなぁ。電話でろや!ボケ」
ライオンとは、店舗名。
多分、こいつのグループは、動物系なんだろう。
他にもフルーツ系などの闇金業者もあった。
ライオンとは、ウチに付け馬しに来たヤツの店舗らしい。
俺は、小林の携帯を預かる事にした。
池袋に着き、俺は小林にトイレに行ってくると言い、トイレに向かった。
小林は、池袋駅の東口付近で待たせた。
俺はトイレに着き、小林の携帯を取り出し、さっきのライオンへ電話をした。
ライオンが電話に出ると俺は、こう切り出した。
小林を預かってる。っと。
ライオンのヤツは、めちゃくちゃに怒っていた。
小林を返せだの、今どこにいるんだ。などなど。。。
俺は、店長を出せと言った。
すぐにライオンの店長が電話に出て、どこに居るんだと言い出した。
俺:小林が欲しいか?
店長:くれんのか?
俺:小林は、まだ金は持ってる。あんたのところ以外に上げてもいいんだよ。
店長:分かった。じゃ引取りに行くからどこにいる?
俺:池袋
店長:わかった
俺:池袋、東口のイケフクロウの前で待たせてある。
店長:すぐ行く。
電話を切った後、小林の携帯を水に濡らし、再起不能にした。
電源を入れてもまったく動かない事を確認し、きれいに拭き取った。
トイレの外では、小林が待っている。
そこへ戻り、小林に携帯を返した。
今から弁護士が来るからイケフクロウの前で待っててと伝え、俺は、仕事の用事があるからと言い残し、地下鉄丸の内線へ向かった。
俺には、弁護士の知り合いなんて一人も居ない。
俺が、紹介してほしいくらいだ。
100万は会社へ。
残りの50万は、俺のポケットへ。
小林に関して、後の行動なんてどうだっていい。
まったく興味が無い。
要は、債権回収とちょっとばかりのお小遣い。
だから、取立ては楽しくてしょうがなかった。