困ったものです。 -37ページ目

困ったものです。

好きなこと、感じたこと、ひとりごと。 気ままに書き散らかします。 ぼんやりしてたら、30代あっという間に過ぎちゃうからね!

「こっちにおいで。」

わんこの誘いを1度目は断った。

 

「テレビ大きいよ!」と自慢していただけあって、

何インチあるかも分からない画面が

ちょうど東京五輪の開会式を流し始めたところだったから。

 

「まだ、もうちょっと見よ」

 

次々と繰り広げられるパフォーマンスを眺めながら、

あーでもない、こーでもないと二人で批評した。

 

「こっち、おいで。」

2度目は断ろうと思わなかった。

 

おずおずと距離を縮めたら、あっという間に抱き締められて唇を塞がれた。

熱い舌先に絡めとられて、声も漏れない。

わんこの手が、指先が、私の身体を躊躇いもなく愛撫してくる。

 

随分、性急だな、と思った。

 

1ヵ月程前に口付けを交わしてから

ずっと「待て」していたのだから当然といえば、当然かもしれない。

 

その日は、最寄りの駅と自宅とを3往復した。

最寄りと言ってもバスで20分かかるものだから、全然、最寄りじゃない。

 

1往復目は、彼のために、ネイルを直しに。

セックスしていると、時折、彼が足の爪先にキスする。

初めて爪先にキスされたときの光景がとても甘美で、脳裏に焼き付いている。

それと同時に、サンダルを履くのにネイルを直したばっかりで良かったな、と思った。

以来、あの、甘美な光景が色褪せないように、定期的なメンテナンスをするようになったのだ。

 

2往復目は、親友のために、美容室に。

親友は、何故か私と一緒に美容室に行きたがる。

前日に別用で会ったばかりだったけれど、美容室に行きたがっていたので

スケジュールを確認し合って、朝いつものところにTELを入れると引き受けてくれるという。

私も転職活動用の写真をとるのに身ぎれいにしておきたかったから、カットとカラーリングをお願いした。

証明写真の映りはイマイチだったけど、髪のメンテナンスをしたから、まだマシだ。

 

1往復目の帰り道、バスを降りるとブルーインパルスが上空に5色の線を描いていた。

あわててスマホを取り出し、画像に収める。

 

誰に、送ろうかな。

 

本当は彼に送りたかったけど、休日はLINEしないのが暗黙のルールだ。

ふと、わんことのトーク画面を開く。

前日に予行演習しているブルーインパルスの画像を送ってくれたのだ。

 

「本番のブルーインパルス!」

自己満足のLINEを送り付けると、直ぐに返信がきた。

それから、いくらかのやりとりを繰り返して。

独りで過ごしていられない夜に、一緒に開会式を観ようというものだから。

お邪魔することになったのだ。

 

その日、最寄り駅へ向かう3度目のバスに揺られながら、

どうしようもなく、こんがらがった、この日々が何か変わるだろうか、とぼんやり思った。

 

大画面のテレビがアーティスト達のパフォーマンスを流し終えて、各国選手団の入場を告げる。

私の身体は、じんわりと熱をもって、立っていられなくなってた。

 

「わんこの、お部屋にいこ。」

初めてお邪魔するのにワガモノ顔でそう告げると、わんこの手を引いて寝室の扉を開いた。