『全部、まるごと、呑み込んでしまいたい。』
暗闇で重なりながら、不意にそんなことを思った。
「舐めるの、ほんと上手だよね。きもちいー。」
快楽に身を委ねている彼は、暢気だ。
うまいとか、へたとか、そんなもんじゃない。
自分でも咽てしまうような情欲をぶつけているんだから。
ひとくちずつ、齧りとるように唇を這わせる。
ひとくちずつ、味わうように舌を滑らせる。
あなたにとって、私って、何?
言えたらラクになるかもしれないのに、クルシクなりたくなくて聞けない。
もう、めちゃくちゃに抱き合った直ぐ後なのに、
スマホの画面をなぞりながら
「忙しい」本当の理由を気にしている彼が大嫌い。
家の用事があるんだったら、早く帰って。
頭では分かっているのに。
「まだ一緒に居たい。」
口では嘘をつけない。
「ごめんー。」
電車に連れ去られていく彼を見送るのは、しんどい。
我儘で、自分勝手で、しちゃいけないこと、をしているのだけれども。
私は、ヴィヨンの妻にはなれないし、斜陽の女にはなりたくないし、
下駄の跡はガラじゃない。
報われたくて、まだ、足掻いているのだ。