彼の、得意技。
何度目かの逢引きの後、初めて手を繋がれたとき。
「いや、か?」
しっかり指先を絡めとられてしまって。
振り解くことができなかった。
別れ際に、初めて口付けを落とされたとき。
「いや?」
何かことばを紡ぐより前に、また直ぐに唇を塞がれてた。
初めて抱き合って。でも、ちゃんとお互いの家に帰って。
余韻が残る朝に来たLINE。
「こんなふうになったの、いやだった?」
この聞き方は、スゴク、ずるい。
「手、繋いでいい?」って聞かれたら。
ほんの少しの理性で「ダメ」って言えるのに。
「キスしていい?」って聞かれたら。
ぐだぐだの倫理観を呼び起こして「ダメ」って言えるのに。
「抱いていい?」って聞かれたら。
薬指に指輪なんかしてる男は「ダメ」って言えるのに。
「いや、か?」の問いかけには、
「いやじゃない」気持ちがほんの少しでも混じっていたら
何も言えなくなる。
彼は、いつも、ずるい。