130億光年先にある直径1300光年の赤い点

 ブラックホールの存在が確認されると、天文学界は、銀河とブラックホールのどちらが先かという問題に直面した。当初は両者の関係は注目されず、銀河の中心部の質量とその内部にある超大質量ブラックホールの質量が、一定の比率を示していることが確認された後に浮上した疑問だった。

 学界の主流は、銀河が先に形成された後、中心部にブラックホールが成長したという見方だ。銀河内の巨大な星が核融合の燃料を使い尽くした後に崩壊し、ブラックホールを形成し、このブラックホールが周辺の物質を吸収し、時間が経過するにつれて合体して巨大化したと考えていた。

 しかし、この理論では、初期の宇宙でも太陽の質量の数十億倍に達するブラックホールが存在していたという事実を説明するのが困難だった。最近、英国ケンブリッジ大学を中心とする国際共同研究チームが、長年の議論を解消する手がかりとなり得る研究結果を発表した。

 研究チームは、米国航空宇宙局(NASA)のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測で、ビッグバンから7億年しか経過していない初期の宇宙において、超大質量ブラックホールが巨大な宿主銀河なしに形成された証拠を発見し、国際学術誌「ネイチャー」と「王立天文学会月報」に発表した。

 研究チームが見つけた証拠は、地球から約130億光年離れた原始天体Abell 2744-QSO1(以下、「QSO1」)だ。この天体は、直径わずか1300光年の非常に小さな赤い点のようなかたちの原始銀河だ。

■銀河なしでブラックホールが自ら巨大化したという証拠は?

 研究チームは、JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)を利用し、この天体の内部にある水素ガスの回転速度を測定した。その結果、ガスがまるで太陽系の惑星が太陽を回るかのように、中心に対して完ぺきな「ケプラー運動(回転・公転)」をしていることを確認した。これは、質量の大部分が分散している星ではなく、中心の一点に集中していることを意味する。

 これをもとに質量を計算した結果、中心のブラックホールの質量は、何と太陽の5000万倍に達することが判明した。さらに驚くべきことは、このブラックホールが銀河全体の質量の少なくとも3分の2(66%)に相当するという点だ。現在、われわれが宇宙で見る超大質量ブラックホールの質量は、一般的な銀河全体の0.1%の水準にすぎない。これと比較すると数千倍も高い異常な割合だ。これは、このブラックホールが、小さなブラックホールと合体したり、近くの物質を吸収したりして形成されたものではないことを示している。宿主銀河が十分に育つ前に、そして、星が本格的に生まれる前に、ブラックホール自らが巨大な存在へと成長したことになる。

■理論上の存在にすぎなかった直接崩壊ブラックホール

 この天体の成分も、これを裏付けている。分析の結果、星の誕生から死に至る過程で生じる酸素などの重い元素(金属)がほとんどなく、宇宙初期の原始ガスである水素とヘリウムだけで形成されていた。金属元素の含有量は太陽の0.5%未満に過ぎなかった。これまで観測されたなかでは、最も原始的な環境の一つだった。

 研究チームは「これは、理論上は存在していたが、これまで確認されていなかった原始ブラックホールや直接崩壊ブラックホールの存在を裏付ける証拠」だと主張した。論文の共同著者であるケンブリッジ大学のロベルト・マイオリーノ教授(天体物理学)は「ブラックホールの形成と成長に関する古典的な理論について、全面的な再検討を迫る発見」だと述べた。

*論文情報
A direct black-hole mass measurement in a little red dot at high redshift.
doi.org/10.1038/s41586-026-10579-4 
A black hole in a near pristine galaxy 700 Myr after the big bang.
doi.org/10.1093/mnras/staf2109