駅の入り口、階段の上

僕はいつも彼女を待っていた

 

名前も知らない

ただ同じ大学に通っていただけの彼女を

 

長いふわりとしたスカートに

同じくふわりとした長い髪が

軽やかに、この階段を駆け下りていく姿が見たくて

ケータイをいじるふりをしながら、

僕はいつも彼女を待っていた

 

別にリアルで会う必要なんかなかった

ただ、この階段を駆け下りる彼女は、

いつもどこか微笑んでいたから

 

この地下鉄で、彼氏に会いに行くのだろうか

それとも何か、楽しいことでも待っているのだろうか

その微笑を携えた横顔は、

僕には一つの清涼剤のようだったから

 

 

雨の降るある日。

彼女はいつものようにやってきた

そして、傘をパチンとたたむと、

少し、横に目線をそらした。

 

 

その時、目を見てしまったんだ。

僕は彼女と、目が合ってしまったんだ。

 

彼女は伏し目がちに

少し会釈をすると、いつものように軽やかに

階段を駆け下りていってしまった。

 

 

それ以来、僕はあそこに行っていない。

 

 

今でもふと、思い出すのだ。

彼女はまだ、あの微笑にも似た横顔で

軽やかに階段を駆け下りているのだろうか。

 

スカートと長い髪をふわりとさせながら、

いつも通りのあの時間、

軽やかに階段を駆け下りているのだろうか。