朗報 | ENSEMBLE ni-ke

朗報

先日、思いがけずとても嬉しいことがありました。

実家の母から連絡があり、僕の小中学校時代の同級生が突然実家を訪ねてきて、どうしても僕に伝えたいことがあるので連絡先を教えてほしいと言っていたとの話を聞きました。

これだけ聞くとなんだか怪しげな感じがしますが、その同級生の名前を聞いたところ、僕には一つ思い当たることがありました。


その同級生は小学校時代は「ザ・ガキ大将」といった感じの男子で、少々荒っぽいところがありながらも非常に男気があり人情家で、なんやかんや男子からも女子からも慕われていた記憶があります。僕が些細なことから普段仲良くしていた友達から仲間外れにされていた時に、相手を本気で注意してくれたこともありました。

中学生になってからも彼の人柄が変わることはなく、部活にも一生懸命励んでいました。勉強はあまりがんばっていた印象はありませんでしたが、3年生の受験の時期になると「部活のために行きたい高校がある」と言って大きなペンだこを作りながら休み時間にも一生懸命勉強していたことがとても印象的でした。

彼とはたまに遊んだり、うちに泊まりに来たこともありましたが、そこまでいつも一緒にいる仲間というわけではなかったので、高校からは別々の学校になり、その後は20代の頃に同窓会などで1~2回顔を合わせた程度で、それから会うこともないまま数十年が過ぎました。


数年前に、テレビでとある不祥事を起こした会社の会見が流れていました。ふと目をやると、そこにはかすかに面影を残した元ガキ大将の彼が映っていました。彼は、部下が起こした不祥事の責任を取り、会社の矢面に立って悲痛な表情で会見に臨んでいました。そんな彼と僕が知っている頃の彼とは、頭では同一人物と分かってはいても、どうしても重ねることができませんでした。   

僕はいても立ってもいられなくなり、彼個人の連絡先は分からなかったので、その会社宛てにメールを送りました。内容はあまり覚えてはいませんが、彼を激励する文章と、会社として会見の矢面に立つような人達を守ってほしいといった内容だったと思います。勿論、会社が一番大変であろう渦中に送られてきたそんなメールなんて、彼の目に届くはずがないだろうことは重々承知していました。それでもテレビに映る彼に向けて何かアクションを起こさずにいられなかったのだと思います。それは正直、善意というよりかは自分自身のためだったと言えると思います。


そして、そんなことがあったということも記憶から薄れていた中、彼が実家を訪ねてきたというわけです。
母から彼の電話番号を聞いたので早速こちらから電話をかけ、数十年ぶりに会話をすることになりました。

やはり彼は、その時僕が送ったメールを見ており、いつかどうしてもそのお礼が言いたかったけど周りに僕の連絡先を知っている人がおらず、そのため昔の記憶を頼りにわざわざ実家を訪ねてきてくれたとのことでした。

彼曰く、あの不祥事の時は本当にどん底だった。そんな時に会社から、自分に宛てた激励のメールが届いていたことを聞かされ、それを見てすごく救われたと話してくれました。送り主が僕だと分かったのは、文末に僕の下の名前の記載があったからとのこと。僕としては無記名でとも思ったけど、独善的に言いたいことだけ言い逃げすることに気が引けた結果、下の名前だけを記名してメールを送った記憶がおぼろげながらありました。

僕からしてみれば衝動的に、そして独善的に送ったとしか認識できていないメール。それでもそれが、少しばかりでも彼の心を軽くすることができた。そして彼はあの頃の義理堅い性格のまま、迷わず僕にお礼を言いに来てくれた。

何より嬉しかったのは、電話口の彼の声がとても元気そうだったこと。
不祥事により迷惑をかけた方々へ、会社の一員として自分なりのケジメをつけた後、会社に残る道もあるにはあったそう。しかし不祥事の影響から、会社に残るには他県への異動という条件付きであったため、自分の家族のために彼は退社を決意。その後、なんと自分で会社を立ち上げたとのことでした。
彼が元気だったことに加えて、あの頃と変わらない、もしくはそれ以上のバイタリティーと努力家の面を垣間見ることができて、感無量の気持ちでした。彼はやっぱり今でも、あのガキ大将の彼のままなのだと感じました。


やらない善よりやる偽善。
偽善かもしれない。独善なのかもしれない。相手に届かないかもしれない。でも、もしかしたら自分が行動を起こすことで何かをほんの少しだけ変えることができるかもしれない。そのほんの少しで、救われる人、救われる自分がいるかもしれない。世の中が大変な今だからこそ、人の温かみを感じることができるのかもしれない。
彼のおかげで、そんなふうに思うことができました。
だから感謝するのは僕のほうです。
本当にありがとう。