伴奏者探しは恋人探しに似ている | ENSEMBLE ni-ke

伴奏者探しは恋人探しに似ている

いきなりですが、大学の頃は伴奏者を探すのに苦労しました。


音大では実技試験の際、多くの場合同じ大学のピアノ科の方に伴奏をお願いするんですが、

伴奏は基本無償で引き受けなければいけないうえに単位がもらえるわけでもないので、

フルートやサックスなどの伴奏が難しい楽器は敬遠されがちな傾向にあるんです。

※現在では伴奏が若干単位に反映される学校も増えているようです。


そのため、僕は4年間で4人もの方に伴奏をしていただくことになりました。

まあ、結果的には良い経験になったんですが…。当時は本当に必死でした。


ちなみに4人とも同級生で女性です。断っておきますが、好んで女性を選んだわけではありません。

音大生は7~8割が女性だということを是非覚えておいてください。



1人目の伴奏者

同郷だったよしみもあり入学後すぐに伴奏を依頼するも、「彼氏がいるから」というよくわからない理由で断られかける。よくわからなかったが必死に説得した結果承諾してもらい、その後2年間近く伴奏をしてもらう。努力家で良い方だったが、「忙しくなった」という理由で伴奏を打ち切られる。


2人目の伴奏者

もともとアンサンブルの伴奏をお願いしていたよしみで個人の伴奏をお願いするも、1度の試験のみで伴奏を打ち切られる。理由は「前から伴奏を引き受けてた人だけで精一杯だから」とのこと。


3人目の伴奏者

試験ではなく、伴奏と合わせるのが難しい曲のレッスンを受ける際、実際に伴奏してもらうために同級生から紹介していただいた方。急にお願いしたが快く承諾してくださり、そのうえ技術も高く素晴らしい伴奏者だった。当然のように試験での伴奏もお願いしようとした矢先、体調を崩して休学してしまう。


4人目の伴奏者

試験が1ヵ月後に迫っても伴奏者が決まらなくて焦っていた僕を見かね、同じフルート専攻の同級生が「今回の試験では無伴奏の曲をやるから」と、自分の伴奏者を紹介してくれました。

僕のやる曲が伴奏の難しい協奏曲だったこともあり、その方は当初引き受けるのを渋っていましたが、

必死だった僕は「譜面では難しそうに見えるけど簡単だから!すぐできるよ!!」とホラを吹きつつ説得し、なんとか引き受けてくれることになりました。

※協奏曲の原曲ではオーケストラが伴奏となるので、それをピアノ伴奏に編曲している分、技術的に難しい場合が多いのです。

その方の演奏は変な癖が全然なく、表現力はあるのにどこか自信なさげに演奏するところや、決して器用ではないにもかかわらずこちらの意図を一生懸命に汲み取り、どんどん吸収して演奏してくれるところなど、諸々がすごく僕の好みの方でした。

レッスンや試験の本番の時も素晴らしい演奏をしてくれ、普段はあまり伴奏者を褒めない僕の師匠も「あの子の伴奏いいね!」とはっきりと仰っていました。


僕としてはようやく巡り会えた理想の相手なわけですから、次の試験、つまり卒業試験には是非ともこの方に伴奏をお願いしたいと思い、当然のように卒業試験の伴奏を依頼しました。


返事は「もう少し考えさせてほしい」とのことでした。


それから2ヶ月ほど経っても何の返答もなく、焦った僕は校内でその方に会う度に返答を求めましたが、いつも濁されるだけでした。


業を煮やした僕は、ある日その方が練習室で友人の方数名と話している時に、練習室に押し入って

「そろそろ考えてくれませんか!?」と言ったことがありました。

周りの友人の方々は明らかに公衆の面前での告白と勘違いし、引いている様子でした。


その後、さすがに可哀想に思ったのか2人で話す時間を作ってくれました。

そこで「もう就職活動を始めるので時間がない」と言われました。


僕との伴奏合わせも、そして僕の師匠のレッスンも好きだったから最後まで悩んだくれたそうですが、

やはり人生の岐路に関わる問題に勝てるはずはなく、僕の想いはあえなく片想いで終わったのでした。


その後僕は、卒業試験の伴奏者はその方しか考えられなかったという理由から、無伴奏の曲を試験曲に選びました。



その後も伴奏者探しには苦労を強いられてきましたが、

困った時にはいつも大学の先輩である素晴らしいピアニストの方が助けてくれたし、

そして現在ではうちのアンサンブルにはエリカ様という最強の伴奏者がいるので、

そういった方々の素晴らしさや有難さが分かるのも、大学の頃から苦労してきたおかげなのかな、とも思います。


今日もアンサンブルメンバーで集まって楽しい会議(会食?)をすることができました。

何はともあれ、僕は今はいろいろな意味で恵まれていると思います。

ありがとう。


REN