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Z42.マッチを売った少女(前編)

 

「今日は大晦日、絶好の家出日和よ」
少女は決意した。
明日は新年の元旦、新しい人生の門
出にふさわしい日である。

だが、解決すべき課題は2つある。
まずは、直近の課題。
当面の生活資金をどうするかだ。
そした、根本的課題。
今まで、自分を搾取してきた父親と
どう縁を切るかである。

「街角に立ってマッチを売れって、
 世間知らずもいいところだわ。」
少女は思った。
父親は、商売というものを分かって
いない。
この寒空に、路上でゆっくり煙草を
ふかすような物好きはいない。
仕事帰りに、携帯用の小型マッチを
買って帰るパパさんもいない。
家の暖炉やカマドで使うのは、徳用
の大型マッチなのである。

それゆえ、少女は、かねてより家出
の準備を進めてきた。
父親の指示通り、昼間は街角でマッ
チを売りながら、夜は、ひそかに酒
場と賭博場を回っていたのである。
もちろん、春を売るためではない。
寒さをしのぎながら、マッチを売る
ための販路開拓である。

シンシンと冷え込む夜でも、酒場や
賭博場ならば、路上のように凍える
事はない。
賭けで大勝ちした客や、酔って気が
大きくなった客は、病気の父のため、
夜も働く勤労少女には、おしみなく
財布の紐を緩めてくれる。
病気がアル中だとは言えないけれど。

「安宿なら、これで正月休みは暮ら
 せそうね。」
少女は、売ったマッチの個数分の売
上金を父親に渡し、客からもらった
チップは、すべて自分の懐に蓄えて
きた。
それが、家出後の当面の生活資金で
ある。

「でも、住むところを確保するなら、
 もっと収入を増やさないとね。」
幸い、家で飲んだくれている父親は、
少女が出入りしている酒場や賭博場
の事を知らない。
いや、家出後に新しく立ち上げる商
売のためには、まだ、知られてはな
らないのだ。

少女は、酒場と賭博場の客にマッチ
を売りながら、店長に、オリジナル
・マッチの企画を持ち掛けていた。
その店の宣伝広告を入れたオリジナ
ルデザインのマッチである。

「やっと、運が向いてきたかも。」
店長からペンと紙を借り、その場で
デザインの提案をするパフォーマン
が功を奏し、何店かで、受注契約が
とれた。

店側の税金対策もあり、どの店でも
年末の余り予算で前金を手にできた
事は、少女にとって幸先の良いスタ
ートになった。
これで、家には帰らず、安宿で、世
間が正月休みの間を食いつなぎ、年
明けの営業初日に合わせて納品する
縁起物のマッチの製作ができる。

「小さく産んで、大きく育てる。
 やっぱり、最初は他人が休んでい
 る時に働らかないとね。」
地道に続けてきたマーケティングに
基づき、少女には、それなりに勝算
があった。

日中は、駅前銀座でマッチを売り歩
きながら、道具と材料が調達できそ
うな店は調査済みである。
駅前銀座で重要なのは、昔からある
自宅兼店舗の小さなお店。
こういう店は、正月休みでも、扉を
叩けば歓迎される。
年始の縁起物の数程度なら、十分、
調達可能である。

縁起物の需要の視点からも、新年の
仕事始めの時期というのは重要だ。
正月ボケで、世間の財布の紐は緩ん
でいる。
だから、休み明けに、酒場と賭博場
に縁起物のマッチを納品できれば、
次の受注につながる可能性は大きい。

当面は、オリジナルデザインの広告
入りマッチが頼みの綱渡り生活とな
るが、起業にリスクは付き物である。

少女は、躊躇する事なく駅前銀座の
裏通りにある金融業者の店を訪れた。

(つづく)