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Z43.マッチを売った少女(後編)

 

「至急、道具代と材料費の不足分を
 お借りしたいのですが...」
裏通りで年中無休の金融業者、しか
も個人営業と言えば、高利貸しだ。

少女は、店主に、広告入りマッチの
受注契約書と受け取った前金を見せ、
正月休みに製作する予定である旨を
説明した。

「道具と材料も駅前銀座で調達する
 予定なんです。」
そう言って、父親の家の権利書を机
の上に置き、父親の署名があるペー
ジを静かに開いてみせた。

「これが、うわさに聞いたマッチ売
 りの少女か...」
高利貸しは心の中で呟いた。
少女の境遇は、商店街の店主達から
聞いていた。

「で、幾ら必要なんだい?」
受注契約書の発注者欄には、この駅
前銀座の酒場と賭博場の店主達の署
名がある。
商店街の顔役達の取引先となれば、
ここで商売を続ける以上、高利貸し
としては、相手が未成年でも断る事
はできない。

少女は、差し出された借用書に、父
親の署名を真似て書き入れ、持って
きた父親の実印を押した。

「商売、上手く行くといいな。」
高利貸しは、それ以上、何も言わず、
借用書を受け取ると、必要な額の資
金を融通した。
少女に返済の意志はなく、父親への
復讐のため、借金の形に家を渡す事
が目的なのは承知の上である。

「ありがとうございます。
 お礼に、こちらのお店の広告入り
 マッチの見本を後でお届けします」
少女にとっては、父親との縁を切る
ために、こうした金融業者とコネを
作っておく事も重要な保険である。
借用書の名義は父親であり、もし、
父親が何か言ってきた場合は、この
金融業者に一報入れれば、カタがつ
くからだ。

「よかった。今日のうちに必要な道
 具と材料を入手できそうだわ。
 今夜は、宿屋で雪見酒かしら。」
高利貸しの店を出ると、夕暮れの商
店街には雪が降り始めていた。
少女は、ポケットから折り畳みのレ
インコートを取り出すと、大晦日の
人混みの中に消えていった。

(おしまい)