正木明1の1(はじめ) -17ページ目

正木明1の1(はじめ)

八十歳(2014)になって、「老いのうた」のタイトルで詩作を始めました。すっからかんの音と色と詩と・・・・・・・


          「煙」

     「一」
  若い頃
  ミミズの背にまたがって
  抒情の葬式に出かけ
  隠亡(おんぼう)に焼かれる
  抒情の煙を 胸一杯吸い込んだ
  あの日
  焼かれた 抒情の煙は
  松林を ゆっくり進み
  やがて 砂浜から海に出
  空に消えた
  
  その夜(よ)
  ミミズは 銀色の蛇となって
  黒い袋に その夜の闇を入れ
  丁寧に首に結びつけ
  くねくねと 海に入り
  沖に消えた
    
     (二)
  今日日(きょうび)
  髭面(ひげずら)の隠亡は
  とうに 亡くなり
  焼き場は あとかたもなく
  松林は 住宅地となり
  砂浜には 堤防が出来上がり
  見えない 海からの
  潮騒(しおざい)も 潮の香りも
  すっかり 乾いて
  なじみのない粒子が 混ざっている
  
     「三」
  雨の日
  ぼくは 不動産屋さんの店で
  活けた花をみながら
  活けた花の わづかな生命(いのち)を
  支えるのは 水だと
  自然であろうが
  切られた 自然であろうが
  水は 水だと
  ・・・・・・・・・・・・・・
    「・・・・ここに押せば いいのですね」と
    ぼくは 不動産屋さんの書面に判子を押す
  無罪の死刑囚さながら
  ぼくは 煙草を吸う
  煙草の煙は やすぽい天井に
  ゆっくり 立ちのぼり
  コットンと 音立てる
  ヘン だな