「遠い 別れ」
おれは
悪い人間だ
多分 これから死ぬまで
もう
いい人間にはなれないだろう
おれは「バカ」だった と
まだ 時々「バカ」だった などと
馬鹿なことを いう
おれは ほんとうに
悪い人間だ
それでも
季節の変わり目に
吹く風が 春・夏・秋・冬 と
不思議な音を奏でる
むかし
僕の小さい頃
池袋の日活映画館の前に
たくさんの戦車が止まっていて
たくさんの陽(ひ)に焼けた兵隊さんがいて
その中の一人の兵隊さんが
僕を抱き上げ
戦車をさわらせてくれたのだ
その時も 季節の風は吹いていて
戦車は ピカピカだった
僕を抱き上げてくれた兵隊さんは
白く透き通った顔で
定かでない その顔が
時々 思い出され
その時 吹いた風が
僕の全部を 持ち上げ
持ち上げて そっと下(おろ)すと
季節の風も 消えてしまい
僕を 抱き上げてくれた兵隊さんは
何処へ行ったのだろう
何処に いるのだろう