「無題」
(一)
2016年4月4日未明、私の老いは「完全なる絶望」
であると、知った時ーーー。深い、晴れることのない
靄(もや)に沈んでいた湖沼に、一瞬の光がさし、
湖沼の全体が鮮やかに現れたのだ。
その時、全ての存在の価値が消えたーーーー。
(二)
私は森の中の湖沼への小径(こみち)を歩いていた。
深い緑の森は不思議な明るさに満ちていた。
無数の木洩れ日が音のない音楽に輝き、腐葉土は
やさしく柔らかであった。小径は何処までも
つづき、私は軽い疲れに立ち止まった時、森が、
小径が、光が ぐらっと、 揺らいだ。靄だ。一面の靄だ。
森も光も湖沼もやがて靄の中に沈んだ。
森も湖沼も光も再び現れることはないだろう。
ーーーー。と、
「消えた存在の価値」の「価値」が現れた。
「完全なる絶望」であると。
境界線は靄の中に消え、頼りない僅かに残った垣根の
上空に漂う木片が、空虚の世界からの使者だとすれば、
僕は幻覚かも知れないその小さな木片にすがるしかない。
今日 夏の日 蝉が鳴いている