ふわりと君の香りがした。
少し煙草の匂いが混じった香りは、何故か私の心の奥へぐっともぐり込んだ。
戸惑いをかくしながら
「時間遅かったし、もう君は居ないかもと思っていたよ」
と答えると、感情の読み取れない瞳を私に向けて笑いながら
「嘘つきですね」
と一言放ち向かいの席に戻って行った。
私のなかで何かが動き出した。ざわざわともぞわぞわとも違う何か。ただこの時はっきりと君をこのまま連れて帰ろう、いや連れて帰るべきだと思ったのは確かだ。
また、窓の外を眺めている横顔にむかって
「行く当ては無いんだよね?私の家に一緒に帰ろう」
君の返事を待たずに伝票と君の腕を掴みレジへと向かった。