Chapter1 故郷
空港が好きだ。
私にとって家のような場所。
不特定多数の人を排除し、私と同じく、何らかの目的で、ある目的地へと旅に出る人だけが集まる場所。
空港にいるたびに、故郷に戻ったような気がする、
私の故郷はどこにあるのが分からないくせに。
チェックインし、保安検索を通過して、振り返ればそばには誰もいなくなる、
黙々と前へ歩く見知らぬ人だけ。
私と同じく、世界を飛び回る人。
肉体的な疲れと軽い眠さ、将来への大きな不安など、ごちゃごちゃ混ぜて何とも言えない虚無感となる
普段の生活は暖かい夢のようで、空港でその虚無感に飲み込まれたらようやく現実世界に戻ることができる。
映画のエンディングに生きる2時間。
空港にいるたびに、世界の広さを実感できるようになる、
世界は一体何かが分からないくせに。
Chapter2 生活
思えば子供の頃からずっと、
両親と何度も引っ越ししたことがある。
住み慣れた町から馴染みのない町へ引っ越しするたびに、地獄に突き落とされた気分。
恐ろしくて泣き出した子どもの私だった。
しかし、15歳になって、一人でアメリカ行きの飛行機に乗り込んだ私は泣かなかった。
一番泣きたかったはずのとき、私はなぜ泣かなかったんだろう。
もう慣れたかもしれない。
あの頃の私を抱きしめたい気分だった。
Chapter3
あるところに住む時間が増えるとともに余計なものも増殖してしまう。
無限の価値があると思い込んで、私にとってかけがえのない貴重なものは、引っ越しのため手放さざるを得ない。
三か月前に、何度目の引っ越しはもう覚えていないが、捨てるのに忍びないものを捨て、悲しみは一ミリすら感じていなかった。
もう慣れたかもしれない。
あの頃の私を抱きしめたい気分だった。
0122-2024