―期待値と実現値 その2―
人間は、期待値に届かない実現値を過剰に低く、期待値を上回る実現値を過剰に高く評価する。
しかし、人間が抱く期待は極めて主観的なもの。
期待を上回るか、下回るかは、期待する側の人間次第。
“期待を裏切る”
それは、勝手に期待した自分を棚に上げ、期待値と実現値が一致しなかったことの責任を実現値側に課す魔法の言葉。
実現値は常に一意であるのに。
 
 
 
相手:30歳 コンサル勤務 東京大学大学院
方法:婚活サイトomiai
場所:渋谷のイタリアン
衣装:もはや季節が違うので自粛
 
 
21人目は久々の東大同窓生。K氏。
この方とは、3ヶ月ほどLINEのやり取りだけを続けていた。
不毛なやり取り、普通なら途中でやめるだろう。
しかし、筆者にとって、東大男子の入札は貴重であった。
東大男子は東大女子を嫌う傾向にある。
 
東大→コンサルという王道経歴ながら、学生時代はイタリア政治の研究のためイタリアに留学していたという。
精悍な顔立ちに肩の力の抜けたおしゃれさんで、写真にも好感が持てた。
というわけで、3ヶ月寝かせても会ってみたいという期待があったのだ。
 
 
渋谷マークシティ下で待ち合わせた。
駒場キャンパスに通う頃、よく待合せ場所として使った、東大生にとって懐かしい場所。
期待に胸を膨らませつつ待つ筆者。
 
 
そこに現れたのは、やや額が広がり気味の、白くてぷにぷにした小柄な男性だった。
そして、ヘコヘコして腰が低い。
 
はて?
 
K氏はすっきりしたフェイスラインにややロン毛の精悍な顔立ちのはず。
イタリアかぶれのラテンな紳士のはず。
 
別人か??
 
よくみると鋭い眼。
間違いなくK氏であった。
さらによくみるとコムデギャルソンのストールを巻き、手にはお買い物の戦利品を持っている。
おしゃれさんなのかもしれない。
彼のおしゃれは白いぷにぷに感にかき消されているようだ。
 
 
気を取り直し、K氏の手配したお店へ。
シーフードが売りのイタリアン。
 
筆者「さすが、やっぱりイタリアンですねー。イタリアにはどれくらい留学してたんですか??」
K氏「あ、いえ、長期では行ってないんですよ。ときどき1ヶ月単位で滞在してたくらいで…。」
筆者「そっか、長期となるとビザとか面倒ですもんね。文系で博士までって珍しいですよねー。極めてるって感じキラキラ
K氏「いや、修士です。僕実は二浪してるんですよね。」
筆者「あ、ワイン好きって言ってましたよね!向こうでは色々楽しめたんじゃないですか?何にしましょっか?シーフードならやっぱり白かな。」
K氏「実はあんまり強くないんで、1,2杯適当に飲むくらいです笑。白ワインは苦手なので、僕ははじめから赤で!」
 
 
年齢と社会人歴から予測して博士卒と思いきや二浪、修士卒。
留学も短期。
文科I類と見せかけて文科III類(注)。
ワイン好きを語りつつ2杯目からジュース。
ロン毛ではなく薄毛。
細身色黒ではなくぽちゃ身色白。
 
 
全てが少しずつ期待を下回るK氏。
以前、実現値が期待値を少し上回れば、それは高い評価につながることを示した。(6人目―期待値と実現値―
K氏はその逆を体現してくれた。
 
筆者は、勝手に期待を膨らませ、高い期待値を掲げた。
K氏はK氏のまま、ただ世界に存在していたはず。
期待を下回ったのは、あくまで筆者の責任だ。
しかし、人間は勝手だ。
期待を裏切られたと絶望を抱き、その責任を期待した自分ではなく、期待された相手に課す。
 
 
一方、K氏は終始上機嫌。
筆者が口を挟むすきもないくらいしゃべり続けた。
そのほとんどが遠い昔の話。
学生時代から浪人、高校と遡る。
それにつれ、筆者の視線もどんどんと遠くに焦点がずれていった。
 
 
最後にK氏は、こう言った。
K氏「あ、なんか僕しゃべり過ぎちゃいましたね!仕事ではおじさんとばかりしか話さないので、キレイなお姉さんと話して舞い上がっちゃいました!」
 
なんだ、その安っぽいリップサービス。
女性であることをばかにされたような気がして妙に不愉快だった。
 
 
(注)
東大は文系、理系ともに入学時の科類が3つに分かれている。
文系は文科Ⅰ類、Ⅱ類、Ⅲ類の順に偏差値が高い。
ちなみに理系はⅢ類が断トツ、Ⅰ類、Ⅱ類と続く。