過去の栄光と現実
ひとつ、ふたつ、人には輝ける過去や自慢の出来事があるかもしれない。
それが、自身の価値観や自負心の一部となることもあるだろう。
しかし、過去は糧として消化しなければならない。
いつまでも過去の栄光を語る者は、過去に囚われ、現実から目をそらしているのと変わらない。



相手:29歳 外資コンサル 慶應大学卒
方法:婚活サイトOmiai
場所:恵比寿のピッツェリア
衣装:白ブラウス(ZARA)、ネイビースカート(tomorrowland)、ピンクパンプス(Fabio rusconi)、バッグ(Givenchy)



14人目は、プロフィール写真から慶應ボーイ感を漂わせるK氏。
2つ年下は誤差の範囲。もうだいぶ年下も慣れてきた。


恵比寿駅の改札で待ち合わせ。
衣装はばっちり慶應仕様。
休日出勤後の疲れた顔をリセットしてK氏の到着を待つ。

しかし。

筆者さんですか?
と声をかけたのは、写真の慶應ボーイとは似て非なる類人猿であった。

男性にも奇跡の1枚は存在するのか。
というか、若いときの写真じゃないか。
証明写真は最近3ヶ月以内に撮影したものって決まってるでしょ。
心の中で毒を吐き出し、気を取り直す。

向かうは、メディアにも多く露出しているピッツェリア。
ピッツァ好きの筆者は心躍る。


ビールで乾杯し、アンティパストをつまむ。
K氏のプロフィールの謳い文句は、帰国子女であることだった。
高校入学までをヨーロッパで過ごしたそうで、すっかり気分は外国人だそうだ。

海外過ごした幼少期の話から、外国人の同僚の話まで、俄然国際色を出してくる。
筆者の旧友にも帰国子女は多いが、ここまでごり押しの人は見かけない。


どうやら彼は転職歴があるらしい。

よくよく聞いてみると、春から務める現在の会社は4社目。
筆者の2歳下というと、社会人7年目。
丸6年で3社、平均しても1社あたり2年である。

なかなかのハイペース。

あの会社は保守的で海外育ちの自分には合わないだの、だいたいやることは尽きただの、
と言うK氏。

短期間で職を転々とし、キャリアアップと呼べるだろうか。
おそらく、海外かぶれのプライドだけ立派で、職場に適応できなかったのだろう。

帰国子女という過去の栄光とそれが評価されない現実。

筆者のテーブルには、はったりだけが虚しく響く。


すると、突如店内が暗転。
お店のスタッフによる、歌のパフォーマンスが始まった。
しかも歌うイケメン。
筆者は無になった心に色を取り戻す。

歌うイケメンはプロを目指して修行中とのこと。
営業がてらピッツェリアでバイトしているらしい。

「感動しました、頑張ってくださいね!」

声をかける筆者。
その横からすかさずK氏。

「お兄さん、帰国子女ですか?僕と同じで英語の発音いいから!」


一生過去の栄光にすがって生きていってください。