―初対面のマナー―
不特定多数の人間がバーチャルの世界に行き交い、縁もゆかりもない男女が出会う婚活サイト。
縁もゆかりもないこと、それは婚活サイトの最大の利点であり、最大の難点でもある。
初対面で気に食わなくとも、その時間さえやり過ごせば、すぐに縁もゆかりもない赤の他人に戻ることができる。
それゆえ、何がしかのゆかりのある人間であれば考慮されるであろう、最低限のマナーが軽視されるのも、また事実である。
相手:32歳 新聞記者 慶應大学卒
方法:婚活サイトPairs
場所:有楽町のカフェ
衣装:コート(Johanna Ho)、ファーティペット(Tomorrowland)、ワンピース(BIANCA EPOCA)、パンプス(LOVE MOSCHINO)
183cmの長身に整った顔立ち、前代未聞の容姿をもったS氏との面接。
一度は生で拝みたい、その一心で根気強くLINEのやり取りを続けていた。
S氏から祝日の日中の打診があり、仕事の合間を縫って有楽町へ。
待ち合わせ場所に現れたS氏は、筆者の想像をはるかに上回るイケメン。
俳優かモデルと言われても、おそらく誰も疑わないだろう。
先日のチャラい系イケメンとは違い、新聞記者よろしくきれい目な衣装に身を包んでいる。
大きい荷物は、宇都宮での取材からその足で来たからだという。
時間は昼下がり、カフェでコーヒーでも。
コーヒーを頼んだところで、S氏から重度の二日酔いである旨の申告があった。
本来であれば、アルコールをオーダーしたいところ、全く身体が受け付けない状況とのこと。
地方取材の後なら仕方ないですね、と筆者は擁護する。
しかし、この後1時間の面接の最中、S氏は三度トイレに向かうことになる。
「吐いてはいませんよ。でも、めちゃめちゃ体調悪いっす…」
「大丈夫ですかぁ?笑」
などとあしらうが、これが不細工だったら張り倒して帰りたいところである。
筆者は人のトイレ休憩に付き合うためにコーヒーを飲み、祝日の昼下がりの時間を過ごした。
無駄な時間。
あるいは、筆者ごとき人間がモデルばりのイケメンとお茶を飲むに必要な代償だったのだろうか。
これが、知人同士、あるいは知人を介した他人であれば、許されないマナー違反。
「じゃあ、また」
と言って別れた瞬間から、縁もゆかりもない赤の他人に戻る。
だからこそできる、行動なのである。
人として最低限のマナーと心遣いを身につけた人間が望ましい。
イケメン<ジェントルマン
自身の要求を明確にする機会となった。