イメージ 1岩明均/著 講談社/刊 20090223第1刷543円 アフタヌーンKC
 本作品が連載している月刊アフタヌーン2009年4月号は5巻発売に合わせ表紙と巻頭をヒストリエが飾っています。表紙には「アレキサンダー大王の書記官エウメネスの波乱に満ちた生涯を描いた壮大な歴史ロマン!!」とあり本編の柱の内容紹介には「数奇な生い立ちのせいで、蛮人でありながらギリシア的教養を身につけることとなったエウメネス。幼少時暮らしたカルディアに帰郷中、彼は身分を隠して潜入していたマケドニア王フィリッポスに見初められ、以後その幕下に加わることとなった。マケドニアの首都・ベラを訪れたエウメネスは、そこで二人の王子・アレクサンドロスとアリダイオスに出会う。」
 高校で世界史をやっていないので、なんともあやふやな知識ではあるのだけれど、塩野七生のローマ人の物語を読むと、アレキサンダー大王がもし西進していたら、ローマはローマ足り得ず、以後の西洋史もかなりちがっていたであろう、というような事がかいてありました。マケドニアから見て東のオリエントの方が「富」を持っていたためアレキサンダーは東進し大王となりました。ギリシア諸都市では市民による直接投票が行われ、古代の民主主義がおこなわれていましたが、投票権と被選挙権を持っていたのはギリシア市民の成人男性のみであり、ギリシア市民になるには父母ともにギリシア市民でなければなりませんでした。直接投票が有効なのはポリス(都市国家)という範囲のみであり、閉鎖された血統主義が階級の停滞を生み、ローマ帝国の庇護下でのみ繁栄していきます。ローマを帝国たらしめていたのは、ギリシア文明下の都市国家から始まったにもかかわらず、寡頭政治と戦争で下した敗者を同化し、制限はあったものの市民への参入を緩和し、奴隷も主人の推薦やお金で市民になることが出来、血統による民族主義よりも個々の能力を重視し、階級を流動的にできたためでした。ヒストリエはスキタイかどうかは別にして、拾い児であるがゆえにカルディア市民になることが出来なかった可能性があります。もし市民になれたとしても一家を成せたかどうか。育った都市ではあってもヒストリエにとって社会的因習によって、かなり生き辛くなったのではないかと思われます。
 単純にヒストリエのキャラクターによる記号としてのギリシア時代ではなく、ギリシア時代の文化背景を骨格にしストーリーテリングをしている岩明均の技量に感服。
 5巻の表紙はご覧の通り右目に矢が刺さった武将。右目が無い登場人物は現マケドニア王フィリッポスしかいないので、フィリッポスの若かりし頃の情景を描いているものと推測しています。