数世紀もの間、人が足を踏み入れたことのない深い森の奥、
湖の澄みきった蒼い水面の下に、美しい魚たちが泳いでいた。
天藍色の魚と、紺瑠璃色の魚が、たった二匹、ゆらゆらと数百年。
魚たちが遠い昔、人の子供のかたちでいたとき、
一方は水色の髪、もう一方は群青色の髪。
水色髪は、非友好的で寡黙。
群青髪は、ひかえめな性格から無口。
圧制と野蛮が支配する惑星で、子供たちは反抗心を燻らせ続けた。
大人になるまで生き延びるのは困難な世界だった。
幻のように遠い記憶。
気づいたときには、ふたりは蒼い湖の底にいた。
泳ぐのは、淡々と平和で、静かな愉しさの持続だった。
足で歩いた頃の不自由さは、とうに忘れてしまった。
ある日、天藍色の魚が、
そろそろ、ここを出ようと思う
と、言った。
もう、十分すぎるほど泳いだ
紺瑠璃色の魚が、
出るって、どこへ行くの?
と返すと、
天藍色の魚は、答えた。
空
泳ぐのと飛ぶのは、似ていると思う
天藍色の魚は言う。
次は、鳥
鳥に?
そのときが訪れると、天藍色の魚は、水面を跳び出し、白昼の天空へと羽ばたいた。
“ Celeste Blue ” の小鳥に姿を変えて。
紺瑠璃色の魚は、小鳥の翼の薄蒼のまたたきが、蒼穹にとけて見えなくなるまで
目で追いかけた。
天藍色の小鳥は、視界から消え去った。
それでも空のどこかを、たしかに飛んでいるのだった。
紺瑠璃色の魚は、自分の飛び立つはずのときを、待った。
やがて、陽が沈み、空の色が瑠璃よりも濃い蒼に変わる頃、
紺瑠璃色の魚は、空へ向かい、全力で跳んだ。
星が輝きはじめた空へ。
紺瑠璃色の小鳥が、夜空へ吸い込まれていった。
小さなまたたきは、 “ Sapphire Blue ” の小鳥の翼の羽ばたき。
新しい栖の夜空で、小鳥は、紺瑠璃色に同化し、いつしか見えなくなった。
昼の空には、天藍色の小鳥が、
夜の空には、紺瑠璃色の小鳥が飛んでいる。
いつか、空の昼と夜のあわいに、二羽の小鳥は、
あいまみえるだろうか。
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*架空の物語の断片です。
登場人物も架空の存在です。
*最初は2015年に、こちらのブログに投稿しました。



