
" 丘と、色を聴く少年 "
霜が降りる朝
世界は薄い硝子の器のよう
少年は冬の丘に登る
小さく呼んだのだ
頂に立ち
それを見る
空気のなかに
やわらかな線が浮かんでいる
紫の渦、蒼い円
淡い紅の糸
" まだ、春じゃないのに "
つぶやきは
凍った風に吸いこまれる
線のひとつが震える
丘に伝わる古い話を
思い出す
冬になると〈色の紡ぎ手〉が現れる
姿は見えず
ただ季節の裏側を縫うように
色を置いていく
それを見た者は
以前のままではいられない
少年はそっと手をのばす
何もつかまえられない
けれど
胸の奥にひとすじの光が沈む
彼は音を聴いた
雪の下で眠る芽の音
遠い夏の陽射しが
揺れている音
色彩が
旋律になって
鼓動に重なる
寒い
風は鋭く、空は淡い
それでも少年の影の縁には
わずかな色が宿っている
帰り道
見えぬ糸が
彼に静かに続いている
春が来るとき
花が咲くよりも早く
少年は気づくだろう
あの日の丘で
透明の紡ぎ手と
つかの間
物語を分けあったこと
そしてそれは
今もまだ
空気のどこかで
柔らかく書きつづけられている

